楯を作った神。手置帆負とともに建築と木工の祖とされる。
ヒコサシリとは何の神様か
ヒコサシリはひとことで言えば楯を作った神です。手置帆負神の子で、二柱そろって現れます。
日本書紀の神代下第九段の第二の一書?に、父とともに作盾者(たてぬい)とされたことが記されます。
古語拾遺では、天御量という道具を使って木を伐り、宮殿を建て、御笠・矛・楯を作ったとされます。
ヒコサシリの漢字表記と読み方
読みは「ひこさしり」または「ひこさち」です。
「ヒコ」はすぐれた男子、「サチ」は鉄の矢の意味と解する説があります。
「サチ(幸)」は、海幸・山幸の「サチ」と同じ語です。
もとは獲物を得る道具を指しました。弓矢や釣針のことです。
道具の神であることが、名にも表れています。
彦狭知命(ひこさしりのみこと)
一般に用いられる表記。
彦狭知命(ひこさちのみこと)
別の読み方。
彦狭知神(ひこさしりのかみ)
日本書紀での表記。
ヒコサシリの物語
父と必ず一緒に現れる
この神は、単独で登場しません。
手置帆負神(タオキホオイ) ─ 父。
彦狭知命(ヒコサシリ) ─ 子。
記紀にも古語拾遺にも、必ず二柱そろって出てきます。
日本書紀の神代下第九段の第二の一書では、二柱が作盾者とされます。楯を縫って作る役です。
古語拾遺の神代段でも、二柱が天御量を使って木を伐り、瑞殿を造営したと記されます。
親子で一組の職掌を担う神です。
神武の正殿を建てる
天御量という道具
古語拾遺は、興味深い道具の名を挙げます。
天御量(あめのみはかり)
木を測るための物差し、あるいは縄とみられます。
建築で最初に必要なのは、測ることです。柱の長さ、梁の間隔。すべて測らなければ建ちません。
神が道具を持って現れるという書き方は、技術の由緒を語るためのものです。
御木(みき)と麁香(あらか)という地名も、木と建物に関わります。社殿を建てる家が、自らの由来をこの神に求めました。
いまも工匠の神
この神は、いまも生きています。
地鎮祭や上棟祭の祝詞に、父とともに名が挙げられる。
建物を建てるときの祈りに、いまも呼ばれる神です。
橋の神、鉄橋架橋工事の神としても名が挙がります。
和歌山県には、この神の後裔がいたとされる名草郡があります。
神話に事績がほとんどないにもかかわらず、職業の守り神として実務のなかで生き延びた神です。忌部氏の系譜に属する神には、この形が多く見られます。
ヒコサシリの家系図と家族
ヒコサシリの性格と人物像
ヒコサシリは、作る神です。
戦いません。祈りもしません。木を測り、伐り、楯と笠と矛を作り、宮を建てた。それだけです。
しかもいつも、父と一緒です。
単独の物語を持ちません。二柱で一組の職掌を担い続けました。個人ではなく、仕事そのものが神になっているという形です。いまも地鎮祭の祝詞に名が呼ばれます。
ヒコサシリを祀る神社
この神を祀る社は、父の手置帆負神と一緒であることがほとんどです。
後裔は紀伊国名草郡の御木・麁香の二郷にいるとされます。
いまの和歌山市周辺にあたります。地鎮祭や上棟祭の祝詞に、父とともに名が挙げられ、いまも工匠に信仰されています。
ヒコサシリが現代に残した痕跡
ヒコサシリの名は、建築の祝詞に残りました。
天御量: 木を測るための道具。この神が用いたとされる。
地鎮祭: 工事の前に土地の神に祈る祭。この神の名が挙げられる。
御木・麁香: 紀伊国名草郡の二郷。この神の後裔がいたとされる。
ヒコサシリのご利益
建築守護
宮殿を造営したことによる。
産業繁栄
木工と工匠の祖とされることによる。
厄除け
楯を作った神であることによる。
ヒコサシリについてよくある質問
ヒコサシリとはどんな神様ですか。
手置帆負神の子で、父とともに楯を作った神です。古語拾遺では天御量という道具で木を伐り、宮殿を建てたとされます。
どの書に記されていますか。
日本書紀の神代下第九段の第二の一書と、古語拾遺、先代旧事本紀です。古事記には名が見えません。
いまも信仰されていますか。
地鎮祭や上棟祭の祝詞に父とともに名が挙げられ、建築と木工の神としていまも工匠に信仰されています。
ヒコサシリと併せて覚えたい言葉・用語
一書(あるふみ)
日本書紀が本文とは別に併記する異伝。「一書に曰く」の形で複数載る。