フカブチノミズヤレハナの妻でオミヅヌの母。水路を名に負う。
アメノツドヘチネとは何の神様か
アメノツドヘチネはひとことで言えば水路を名にした女神です。古事記の大国主の系譜に、フカブチノミズヤレハナの妻として登場します。
生んだ子は、国引きの神と同一視されるオミヅヌです。
名義は未詳とされますが、天上界の集められた水路と読む説があります。夫も子も水の名を負っており、この一家は三代続けて水に関わります。
アメノツドヘチネの漢字表記と読み方
読みは「あめのつどへちね」です。名義は未詳とされますが、次のように解く説があります。
「天之」は天津神?を示すのではなく、水源を意識して冠せられたもの。「都度閇」は「集え」で、目に見えない神力によって水が集められること。
「知」は「道」で、ここでは水路を指します。
「泥(ね)」は親しみを込める語です。あわせて「天上界の集められた水路」となります。
天之都度閇知泥神(あめのつどへちねのかみ)
古事記での表記。
阿麻乃都刀閇乃知尼(あまのつとへのちね)
粟鹿大明神元記での表記。
アメノツドヘチネの物語
天の字が付く理由
この女神の名は「天之」で始まります。
普通、これは天津神であることを示します。ところがこの女神は、出雲の系譜のなかにいます。
夫 フカブチノミズヤレハナ ─ 国津神?。
子 オミヅヌ ─ 国津神。
つまり、周りは全員が国津神です。
そのため「天之」は出自ではなく、水源を指すと解されます。水は天から降るものだからです。
神名の「天」が、必ずしも天津神を意味しないという例として、しばしば引かれます。
集められた水路
名の中心にあるのが「都度閇(つどへ)」です。
「集え」 ─ 集まること、集められること。
何が集められるのか。水です。
山に降った雨が、細い流れを集めて水路になる。その様子が名になっています。
夫の名フカブチノミズヤレハナは「深い淵の水が流れ出しはじめること」。子の名オミヅヌは「偉大な水の主」。
集まり、淀み、流れ出し、主となる。三代の名を並べると、水の一生が語られていることが分かります。
粟鹿の書では位置が違う
兵庫県朝来市の粟鹿神社に伝わる粟鹿大明神元記は、別の系譜を伝えます。
阿麻乃都刀閇乃知尼は、布波能母知汙那須奴の妻。
生んだ子は意弥都奴。
古事記と比べると、夫が一代さかのぼっています。
古事記では夫はフカブチノミズヤレハナ、粟鹿の書ではその父にあたる神です。
世代がずれると、系譜の長さも変わります。同じ神々を並べながら、代の数が一致しない。出雲系の系譜には、こうした食い違いが繰り返し現れます。
なぜ記録が少ないのか
この女神には、古事記の一行しかありません。祀る社も確認されていません。
理由は、役割にあります。
誰かの妻であり、誰かの母である。
それだけを果たすために置かれた名だからです。
古事記の系譜には、こうした接続のための女神が数多く現れます。
男神だけを並べると、代を数えることはできても、婚姻による広がりが見えません。妻の名を入れることで、系譜は縦だけでなく横にも広がります。
この女神は、その横の線を引くために名を与えられました。
アメノツドヘチネの家系図と家族
アメノツドヘチネの性格と人物像
アメノツドヘチネは、線をつなぐための神です。
物語はありません。社もありません。それでも古事記は、この女神の名を八文字で丁寧に記しました。
省いてもよかったはずの名が、省かれていません。
系譜を編む者にとって、誰が誰を娶ったかは代の数と同じくらい重要でした。この女神の名が残っているという事実そのものが、当時の系譜の作り方を教えてくれます。
アメノツドヘチネゆかりの地と遺跡
この女神を祀る社は、確認されていません。
古事記の系譜に名が現れるだけで、神社の祭神としての記録が残っていない神です。
子のオミヅヌを祀る社は島根県に多くあり、夫のフカブチノミズヤレハナを主祭神とする社も各地にあります。女神の側だけが社を持たないという形になっています。
アメノツドヘチネが現代に残した痕跡
アメノツドヘチネの名は、古事記の八文字に残りました。
十七世神: この女神の夫と子が属する出雲の系譜。
粟鹿大明神元記: 兵庫県朝来市の粟鹿神社に伝わる書。この女神の夫を一代さかのぼらせる。
アメノツドヘチネのご利益
水の恵み
名の「集められた水路」による。
子孫繁栄
オミヅヌの母であることによる。
アメノツドヘチネについてよくある質問
アメノツドヘチネとはどんな神様ですか。
古事記の大国主の系譜に、フカブチノミズヤレハナの妻として登場する女神です。オミヅヌを生みました。
名前に「天」が付くのに国津神なのですか。
周囲がすべて国津神であるため、この「天之」は出自ではなく水源を指すと解されます。水は天から降るものだからです。
祀る神社はありますか。
確認されていません。古事記の系譜に名が現れるだけで、社の祭神としての記録が残っていない神です。
アメノツドヘチネと併せて覚えたい言葉・用語
天津神(あまつかみ)
高天原に生まれた、あるいは高天原から降りてきた神々。
国津神(くにつかみ)
もともと地上にいた神々。出雲の神々が代表。