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日本神話とギリシャ神話の共通点と違い|なぜここまで似ているのか

日本神話とギリシャ神話には、気味が悪いほど似た話があります。

どちらも、妻を取り戻しに死者の国へ行く。
どちらも、振り返ったせいで失う。
どちらも、その国の食べ物を口にしたせいで戻れなくなる。

交流のなかった二つの土地で、なぜ同じ筋になるのか。

このページでは、原典の場面を並べて、似ている点と決定的に違う点を見ていきます。

日本神話とギリシャ神話は似ているのか

部分的には、驚くほど似ています。

ただし、丸ごと似ているわけではありません。 似ているのは特定の型の話で、神々の性格や世界の作りはむしろ対照的です。

筋書きは似ている。人物は似ていない。

先に結論を書いておきます。

どちらかが真似たという証拠はありません。日本神話が文字になったのは712年(古事記)、ギリシャ神話は紀元前8世紀ごろ(ヘシオドス)で1500年ほど開いていますが、その間に両者が接触した形跡が見つかっていません

共通点① 振り返って妻を失う|イザナギとオルフェウス

日本イザナミが火の神を生んで死に、黄泉の国へ去ります。イザナギは追いかけ、連れ戻そうとします。イザナミは言います。

「黄泉の神と相談してくる。その間、決して私を見ないでください。」

待ちきれなくなったイザナギは、櫛の歯に火をつけて中を見ます。そこにいたのは、蛆がわき腐った妻の姿でした。

逃げるイザナギを、イザナミが追います。黄泉比良坂を巨石でふさいで、二柱は決別します。

ギリシャ。妻エウリュディケを蛇に噛まれて失ったオルフェウスは、竪琴を携えて冥界へ下ります。その音楽に心を動かされたハデスは、条件つきで返還を認めます。

「地上に出るまで、決して振り返るな。」

出口の直前でオルフェウスは振り返り、妻は闇へ引き戻されました

並べると、同じ骨格が出てきます。

① 妻が死ぬ ② 夫が死者の国へ行く ③ 見るな/振り返るなと言われる ④ 破る ⑤ 永久に失う

この型はオルフェウス型神話と呼ばれ、世界各地に分布しています

共通点② 食べたから戻れない|黄泉戸喫とザクロ

日本。イザナギが迎えに来たとき、イザナミはこう答えます。

「すでに黄泉の国の食べ物を食べてしまいました。」

これを黄泉戸喫(よもつへぐい)といいます。その地のかまどで炊いたものを口にすると、その地の者になるという考え方です。

ギリシャ。ハデスにさらわれたペルセポネは、地上へ戻る直前にザクロの実を数粒口にします

そのため完全には戻れなくなり、

一年のうち数か月は冥界で過ごすことになった。

デメテルが嘆く間、地上は実りません。四季の由来です。

骨格は同じです。

死者の国の食べ物を口にすると、そこの住人になる。

食事を「その共同体に属する行為」と見る考え方は、どちらの文化にも根深くあります。同じ釜の飯を食う、という言い方が日本に残っているのと同じ発想です。

共通点③ 世界の始まりが男女の対

日本はイザナギ(男神)とイザナミ(女神)が国と神々を生みます。

ギリシャガイア(大地・女神)とウラノス(天・男神)が神々を生みます。

どちらも、

天と地にあたる男女の対から、世界のものが生まれる。

さらに細かい共通点があります。どちらも夫婦の仲が壊れます

イザナギとイザナミは黄泉比良坂で決別し、ガイアはウラノスを憎んで息子に倒させます。

世界を生んだ夫婦が、そのあと敵対する。

世界が完成した時点で、最初の夫婦の役目は終わるという筋です。

違い|神と人の距離がまったく違う

ここからは、似ていない点です。むしろこちらのほうが本質的です。

日本神話ギリシャ神話
神の性格穢れを嫌う。祓えば戻る嫉妬し、罰する。恨みは残る
人への態度ほとんど関与しない直接関与し、贔屓し、罰する
過ちの扱い祓い清めれば済む永久の罰になることがある
英雄ほとんどいない数多い(ヘラクレスなど)
神と人の境曖昧(人が神になる)明確(人は神になれない)

決定的なのは過ちの扱いです。

イザナギは黄泉から戻ると、川でをします。それだけで穢れは落ち、罰は残りません。むしろその禊から三貴子アマテラスツクヨミスサノオ)が生まれます。

日本では、汚れは洗い流せる。

一方ギリシャでは違います。

ギリシャでは、罰が残り続ける。

プロメテウスは鎖で岩に繋がれ、毎日肝臓を鷲についばまれます。シシュポスは岩を永久に押し上げ続けます。タンタロスは永久に飢えと渇きに苦しみます。

祓って済む世界と、済まない世界の違いです。

もう一つ、神が人に干渉するかどうかが違います。ギリシャの神々はトロイア戦争でどちらかに味方し、直接戦場に降りてきます。日本の神々は、国譲りのあとほとんど地上に出てきません

なぜ似るのか|パクリではない3つの説明

「日本神話はギリシャ神話のパクリではないか」という見方があります。根拠はありませんが、なぜ似るのかには説明があります。

① 人が考えつくことは限られている

最も有力とされる説明です。死者を取り戻したいという願いと、それが叶わないという現実は、どの文化にも共通します。物語にすれば、同じ結末に落ち着きます。

似ているのは、同じ問いに答えているから。

② 型として広がった

オルフェウス型神話は、ヨーロッパ・アジア・北米・アフリカに分布しています。数万年の人の移動のなかで、筋書きだけが伝わった可能性は否定されていません。

③ 記紀の編纂時に外から入った

古事記・日本書紀は8世紀に中国大陸の文化を踏まえて編まれています。大陸経由で入った話の型が混じった可能性は指摘されています。

ただし、いずれも定説ではありません。 どれが正しいかは決着していません

当サイトはどれか一つに決めず、複数の見方があることをそのまま示します。

日本神話とギリシャ神話についてよくある質問

日本神話とギリシャ神話はどこが似ていますか。

冥界から妻を取り戻そうとして「見るな」の約束を破り失う話(イザナギとオルフェウス)、死者の国の食べ物を口にすると戻れなくなる話(黄泉戸喫とペルセポネのザクロ)、世界の始まりが男女の対であることなどです。

日本神話はギリシャ神話のパクリですか。

違います。両者が接触した形跡は見つかっていません。似る理由には、人が考えつく物語の型が限られているという説、型だけが人の移動とともに伝わったという説、記紀編纂時に大陸経由で入ったという説があり、決着していません。

日本神話とギリシャ神話の一番の違いは何ですか。

過ちの扱いです。日本では穢れを禊で洗い流せば済みますが、ギリシャでは罰が永久に残ります。プロメテウスもシシュポスも、終わりのない罰を受け続けます。

イザナギとオルフェウスはどちらが古いですか。

文字になった時期はギリシャのほうが古く、紀元前8世紀ごろのヘシオドスに遡ります。古事記は712年です。ただし文字になった時期と、話が語られ始めた時期は別です。

オルフェウス型神話とは何ですか。

死者の国へ行き、条件つきで連れ戻す許可を得ながら、その条件を破って永久に失うという型の神話です。ヨーロッパ・アジア・北米・アフリカに分布しています。

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このページに出てきた言葉

黄泉の国(よみのくに)

死者が行く地下の国。イザナミが去った先。

三貴子(さんきし)

イザナギが最後に生んだ三柱、アマテラス・ツクヨミ・スサノオのこと。この三柱だけが特別に貴い神として扱われる。

(みそぎ)

水で身を洗い、穢れを落とすこと。イザナギはこれによって三貴子を生んだ。

トロイア戦争(トロイアせんそう)

ギリシャ軍とトロイアの十年に及ぶ戦争。パリスがスパルタ王妃ヘレネを連れ去ったことから始まった。ホメロス『イリアス』はその十年目を描く。

国譲り(くにゆずり)

オオクニヌシが葦原中国の統治権を天津神に明け渡した出来事。