裏切った使者アメノワカヒコの父。名だけが記される。
アマツクニタマとは何の神様か
アマツクニタマはひとことで言えば裏切った子の父です。アメノワカヒコの父神として、名だけが記されます。
葦原中国?平定において、高天原?から二番目に遣わされた使者。それがこの神の子でした。
名の「天津」は天の、「国玉」は国土そのものの霊を指します。天の神でありながら、国土の霊を名に負うという矛盾を含んでいます。
アマツクニタマの漢字表記と読み方
読みは「あまつくにたま」です。「アマツ」は天の、「クニタマ」は国土の霊を指します。
「クニタマ」は、ヤマトオオクニタマやオオクニヌシにも入っている語です。
いずれも地上の神です。
しかしこの神は、天津神?として現れます。天の名と地の名が、一つの名のなかに同居しているわけです。この矛盾は、古くから注目されてきました。
天津国玉神(あまつくにたまのかみ)
古事記での表記。
天国玉(あまつくにたま)
日本書紀での表記。
アマツクニタマの物語
子が八年戻らない
この神の子アメノワカヒコは、国譲り?の使者に選ばれました。
天之麻迦古弓と天之波波矢を授けられて降った。
武器まで持たされた、正式な使者です。
ところが、オオクニヌシの娘シタテルヒメを妻にし、自分が国を治めようと考えて八年戻りませんでした。
問いただしに来た雉を射殺すと、その矢は高天原まで届きます。投げ返された矢が、寝ていた息子の胸を貫きました。
返し矢恐るべしという言葉の由来です。
葬儀で見間違える
この神の登場は、息子の葬儀の場面です。
妻シタテルヒメの泣き声が天まで届き、親族が降りてきて葬儀を行いました。そこへ、妻の兄アヂスキタカヒコネが弔いに来ます。
ところが、この二人は姿がそっくりだった。
父と妻が、死者が生き返ったと思って抱きついた。
怒ったアヂスキタカヒコネは、剣で喪屋を切り倒し、蹴り飛ばしました。
父が息子と他人を見分けられなかったという場面です。
この神が古事記に現れるのは、この場面と、息子が使者に選ばれる場面の二か所だけです。
天と地の名を併せ持つ
この神の名には、説明のつかない点があります。
アマツ(天津) ─ 高天原の神であることを示す。
クニタマ(国玉) ─ 地上の国土の霊を指す。
正反対の要素が、一つの名に入っています。
同じ「クニタマ」を持つ神を並べると、いずれも地上の神です。
ヤマトオオクニタマ ─ 大和の国魂。
オオクニヌシ ─ 出雲の国の主。
この神をもとは地上の神だったとみる説があります。息子が地上に居着いたのも、そのためではないか、という読み方です。
祀る社がほとんどない
この神を祀る社は、ほとんど確認されていません。
記述は、古事記の二か所だけ。
独立した事績はない。
息子のアメノワカヒコも、祀る社がほとんどありません。
裏切った使者として描かれるためです。
父もまた、その巻き添えになった形です。神話での評価が、そのまま信仰の有無に表れるという例といえます。
ただし、岐阜県美濃市には喪山天神社があり、息子の喪屋が落ちた地と伝えられます。
アマツクニタマの家系図と家族
アマツクニタマの子・子孫: アメノワカヒコ
アマツクニタマの性格と人物像
アマツクニタマは、息子で語られる神です。
事績はありません。名だけが記されます。唯一の場面は、息子の葬儀で他人を息子と見間違えるという、悲しくも滑稽な一幕です。
天の神でありながら、国の霊の名を持ちます。
その矛盾は、息子が地上に居着いたことと重なって見えます。天から降りた者が、地上に取り込まれていく。国譲り神話が繰り返し語る主題が、父子二代の名に刻まれています。
アマツクニタマゆかりの地と遺跡
この神を祀る社は、ほとんど確認されていません。
息子のアメノワカヒコも、裏切った使者として描かれるため祀る社が少ない神です。
岐阜県美濃市には喪山天神社があり、息子の喪屋が落ちた地と伝えられます。各地に「喪山」の伝承地があり、物語が実際の地形と結びつけられてきたことが分かります。
アマツクニタマが現代に残した痕跡
アマツクニタマの名は、息子の物語に残りました。
返し矢恐るべし: 放った矢が自分に返ってくること。息子アメノワカヒコの物語による。
喪山: 息子の喪屋が蹴り飛ばされて落ちた地とされる。岐阜県美濃市などに伝承地がある。
国玉: 国土そのものの霊。この神の名に含まれる。
アマツクニタマのご利益
国土安泰
名の「国土の霊」による。
厄除け
返し矢の教訓に連なることによる。
アマツクニタマについてよくある質問
アマツクニタマとはどんな神様ですか。
国譲りのため二番目に遣わされた使者アメノワカヒコの父神です。古事記に名だけが記され、事績はありません。
なぜ天の神なのに「国玉」の名を持つのですか。
「クニタマ」は地上の国土の霊を指す語で、ヤマトオオクニタマやオオクニヌシにも含まれます。もとは地上の神だったとみる説があります。
どの場面に登場しますか。
息子の葬儀の場面です。妻の兄アヂスキタカヒコネを息子と見間違えて抱きつき、相手を怒らせたと記されます。
アマツクニタマと併せて覚えたい言葉・用語
葦原中国(あしはらのなかつくに)
高天原と黄泉の国の間にある地上の世界。のちの日本の国土にあたる。
高天原(たかまがはら)
天上にある神々の国。アマテラスが治める。
天津神(あまつかみ)
高天原に生まれた、あるいは高天原から降りてきた神々。
国譲り(くにゆずり)
オオクニヌシが葦原中国の統治権を天津神に明け渡した出来事。