トトリの父。オオクニヌシの妻の父として名だけが記される。
ヤシマムヂとは何の神様か
ヤシマムヂの漢字表記と読み方
読みは「やしまむぢ」、現代仮名遣いでは「やしまむじ」です。
「ヤシマ」は多くの島、「ムヂ」は貴人、「ノ」は格助詞を指します。
「ムヂ」は、オオクニヌシの別名オオナムヂの「ムヂ」と同じ語です。
尊い者を意味します。大日孁貴の「貴(むち)」も同じ語で、いずれも高い位を表します。
八島牟遅能神(やしまむぢのかみ)
古事記での表記。
八島牟遅能神(やしまむじのかみ)
現代仮名遣いでの読み。
ヤシマムヂの物語
ヤシマジヌミとの違い
娘トトリが生んだ子
この神の役割は、娘を通して系譜をつなぐことです。
娘 トトリ(鳥取神) ─ オオクニヌシの妻。
生まれた子 トリナルミ(鳥鳴海神)。
トリナルミから、十七世神の後半が続きます。
クニオシトミ、タヒリキシマルミ、アメノヒバラオオシナドミ、そしてトオツヤマサキタラシへ。
つまりこの神は、系譜の後半すべての起点にいます。名しか記されていないにもかかわらず、位置としては重要です。
鳥という名の連なり
娘と孫の名には、鳥が入っています。
トトリ(鳥取神) ─ 鳥を捕まえること。
トリナルミ(鳥鳴海神) ─ 鳥が鳴く海。
古代の日本では、鳥は人の魂を運ぶと考えられていました。
ヤマトタケルが死後に白鳥になったのは、その考え方の表れです。
鳥を捕まえることは神事でした。鳥取部という職の名も残っています。この神の系譜は、鳥に関わる集団の記憶を伝えているのかもしれません。
なぜ記録が少ないのか
この神について古事記が記すのは、一行だけです。
八嶋牟遅能神の娘、名は鳥耳神。
それ以外に何もありません。祀る社も確認されていません。
理由は、娘の父であること以外に用がなかったからです。
古事記の系譜では、婚姻相手の親の名がしばしば記されます。誰の家から嫁を迎えたか、という情報が必要だからです。
この神は、その情報を成り立たせるためだけに置かれた名です。國學院大學の古典文化学事業も、この神について概要と系譜のほかに記すべき事項を持ちません。
ヤシマムヂの家系図と家族
ヤシマムヂの性格と人物像
ヤシマムヂは、娘のためだけにいる神です。
事績はありません。社もありません。名の意味は「多くの島の貴人」という立派なものですが、その島を治めた話はどこにもありません。
それでも、この神がいなければ十七世神の後半は始まりません。
系譜という仕組みのなかでは、接続点になることが役割です。物語を持たない神が、構造のうえで欠かせない位置にいる。古事記の系譜の読み方を教えてくれる例です。
ヤシマムヂゆかりの地と遺跡
この神を祀る社は、確認されていません。
古事記に娘の父として名が現れるだけの神です。
名の似たヤシマジヌミを祀る社は、島根県雲南市の須我神社をはじめ各地にありますが、それらはこの神を祀る社ではありません。混同しやすい点です。
ヤシマムヂが現代に残した痕跡
ヤシマムヂの名は、古事記の一行に残りました。
十七世神: この神の孫トリナルミから系譜の後半が続く。
鳥取部: 鳥を捕らえる職。娘トトリの名と結びつけて語られる。
ヤシマムヂのご利益
国土安泰
名の「多くの島の貴人」による。
子孫繁栄
トトリの父であることによる。
ヤシマムヂについてよくある質問
ヤシマムヂとはどんな神様ですか。
古事記にのみ登場する神で、オオクニヌシの妻となったトトリの父です。名だけが記され、事績はありません。
ヤシマジヌミと同じですか。
別の神です。ヤシマジヌミはスサノオとクシナダヒメの子で十七世神の初代、ヤシマムヂはトトリの父であり、系譜上の位置がまったく違います。
名前の意味は何ですか。
「多くの島の貴人」です。「ムヂ」はオオナムヂの「ムヂ」と同じ語で、尊い者を指します。