アメノホヒの子。出雲国造をはじめ多くの国造の祖。
タケヒラトリとは何の神様か
タケヒラトリはひとことで言えば七つの国造の祖です。誓約?で生まれた五男神の一柱アメノホヒの子にあたります。
古事記は、この神を出雲国造・无邪志国造・上菟上国造・下菟上国造・伊自牟国造・津島県直・遠江国造らの祖と記します。
一柱で七つもの家の祖とされるのは、記紀のなかでも異例です。
タケヒラトリの漢字表記と読み方
読みは「たけひらとり」です。「タケ」は勇猛な、「ヒラ」は縁(へり)と同源で、物の端・境界、「トリ」は鳥を指します。
名義は「勇猛な、異郷への境界を飛ぶ鳥」と考えられます。
黄泉比良坂の「比良」も、黄泉と現し国の境界を指します。
別名の天夷鳥命は、「高天原?から夷(ひな)=出雲へ飛び下った鳥」の意です。二つの名は、同じ神格を別の言い方で表しています。
建比良鳥命(たけひらとりのみこと)
古事記での表記。
大背飯三熊之大人(おおそびのみくまのうし)
日本書紀での表記。
武夷鳥(たけひなとり)
日本書紀での別表記。
天夷鳥命(あめのひなとりのみこと)
新撰姓氏録での表記。
タケヒラトリの物語
父と同じく報告しない
日本書紀の葦原中国?平定の段に、この神が現れます。
大背飯三熊之大人(武三熊之大人ともいう)が、父のアメノホヒに次いで葦原中国へ派遣された。
しかし父と同様に、何も報告して来なかった。
親子二代で、戻らなかったことになります。
アメノホヒは、オオクニヌシに媚びて三年戻らなかった神です。その子も同じでした。
寝返った一族として描かれながら、出雲大社の祭祀を代々受け継ぐことになります。この矛盾が、出雲国造の由緒の核心にあります。
出雲の神宝
この神は、神宝とも結びつきます。
日本書紀の崇神天皇六十年七月条に、天皇がこう言ったと記されます。
武日照命(武夷鳥とも天夷鳥ともいう)が天から持って来た神宝が出雲大社に納められているから、それを見たい。
献上を命じた結果、出雲氏に内紛が起き、当時の当主出雲振根が誅殺されました。
神宝をめぐる争いが、一族の分裂を招いたという記事です。
延喜式巻八の出雲国造神賀詞にも、「天夷鳥命に布都怒志命を副へて天降し」という一節があります。
鳥が魂を運ぶ
関東にも祀られる
この神を祀る社は、離れた土地にあります。
鷲宮神社 ─ 埼玉県久喜市。関東最古の大社を称する。
比奈多乃神社 ─ 静岡県掛川市。
元宮土師社 ─ 大阪府藤井寺市、道明寺天満宮の境内。
古事記が挙げる国造のなかに、无邪志国造(武蔵)と遠江国造があります。
埼玉と静岡の社は、それに対応します。
日本文徳天皇実録の天安二年三月二十二日条に「在河内國天夷鳥命神授従五位下」とあり、道明寺天満宮に祀られる天夷鳥命に神階が授けられたと考えられます。
タケヒラトリの家系図と家族
タケヒラトリの性格と人物像
タケヒラトリは、境を越える神です。
名は「境界を飛ぶ鳥」。父とともに出雲へ遣わされ、戻りませんでした。それでも、出雲から武蔵、遠江、対馬にまで及ぶ七つの国造家の祖とされました。
裏切りの記録と、広大な系譜が同居しています。
出雲国造は、いまも千家と北島の二家が続いています。戻らなかった使者の子孫が、千三百年以上祭祀を担い続けたことになります。
タケヒラトリを祀る神社
この神を祀る社は、東西に散っています。
埼玉県久喜市の鷲宮神社、静岡県掛川市の比奈多乃神社、大阪府藤井寺市の道明寺天満宮境内にある元宮土師社です。
古事記が挙げる无邪志国造(武蔵)と遠江国造に、埼玉と静岡の社が対応します。
日本文徳天皇実録には、河内国の天夷鳥命神に従五位下を授けた記録があります。
タケヒラトリが現代に残した痕跡
タケヒラトリの名は、国造の系譜に残りました。
出雲国造: 出雲大社の祭祀を受け継いだ家。この神を祖とする。
出雲国造神賀詞: 延喜式巻八に載る奏上文。天夷鳥命の名が見える。
出雲振根: 神宝をめぐる内紛で誅殺された出雲氏の当主。
タケヒラトリのご利益
子孫繁栄
七つの国造家の祖とされることによる。
交通安全
境界を越える鳥という名義による。
タケヒラトリについてよくある質問
タケヒラトリとはどんな神様ですか。
アメノホヒの子で、出雲国造をはじめ七つの国造家の祖とされる神です。日本書紀では葦原中国へ派遣され、父と同様に報告しなかったと記されます。
なぜ名前がたくさんあるのですか。
古事記では建比良鳥命、日本書紀では大背飯三熊之大人・武日照命・武夷鳥・天夷鳥などと記されます。同定は出雲国造家の系譜書に拠っています。
名前の意味は何ですか。
「勇猛な、異郷への境界を飛ぶ鳥」と解されます。「比良」は境界を指す語で、黄泉比良坂の「比良」と同じです。
タケヒラトリと併せて覚えたい言葉・用語
誓約(うけい)
神意を問うための占い。あらかじめ結果の意味を決めておき、どちらが起きるかで是非を判断する。
高天原(たかまがはら)
天上にある神々の国。アマテラスが治める。
葦原中国(あしはらのなかつくに)
高天原と黄泉の国の間にある地上の世界。のちの日本の国土にあたる。