天孫降臨で先頭に立った武神。大伴氏の祖。
アメノオシヒとは何の神様か
アメノオシヒはひとことで言えば先頭に立った武神です。天孫降臨?のとき、ニニギの前に立って道を開きました。大伴氏の祖とされます。
古事記はその装備を細かく記します。矢筒を背負い、大刀を取り、弓を持ち、矢を手挟んで先導しました。
重武装で先導する姿が、ここまで具体的に書かれる神はめずらしいものです。
アメノオシヒの漢字表記と読み方
読みは「あめのおしひ」です。「アメ」は天、「オシ」は大きい・強い、「ヒ」は霊力を指します。
「オシ」は、アメノオシホミミの「オシ」と同じ語です。勢いの盛んなさまを表します。
天の強い霊力という意味に読めます。
武を担う一族の祖にふさわしい名です。実際、この神の子孫である大伴氏は、代々宮門の警護を務めました。
天忍日命(あめのおしひのみこと)
古事記での表記。
天忍日命(あまのおしひのみこと)
別の読み方。
アメノオシヒの物語
装備が細かく書かれる
天孫降臨の場面で、古事記はこう記します。
天忍日命、天津久米命の二人、天の石靫を取り負ひ、頭椎の大刀を取り佩き、天の波士弓を取り持ち、天の真鹿児矢を手挟み、御前に立ちて仕へ奉りき。
石靫(いしゆき) ─ 矢を入れる筒
頭椎の大刀(くぶつちのたち) ─ 柄頭が槌状の大刀
波士弓(ははゆき) ─ 弓
真鹿児矢(まかごや) ─ 矢
装備を一つずつ挙げるという書き方は、記紀でも異例です。
武装そのものを誇る記述になっています。
大伴と久米
先導したのは、二柱です。
天忍日命 ─ 大伴氏の祖
天津久米命 ─ 久米氏の祖
この二つの氏族が、以後天皇の身辺を守る役目を担いました。
大伴氏は宮門の警護、久米氏はその配下として実働にあたったとされます。
神武東征でも、道臣命(大伴氏)が大来目を率いたと記されます。降臨のときと同じ組み合わせが繰り返されています。
一族の由緒を、神話にさかのぼって主張する形です。
海行かば
大伴氏は、自らの由緒を強く意識した一族でした。
万葉集の編者とされる大伴家持は、こう詠みます。
海行かば 水漬く屍 山行かば 草生す屍 大君の 辺にこそ死なめ かへり見はせじ
海で死ねば水に漬かる屍、山で死ねば草の生える屍。天皇のそばでこそ死のう。振り返りはしない。
一族が代々受け継いだ誓いを詠んだ歌です。
この歌は昭和期に曲が付けられ、戦時中に広く歌われました。神話の一族の誓いが、近代に呼び出された例です。
先に立つということ
アメノオシヒの役目は、前に立つことでした。
御前に立ちて仕へ奉りき。
天孫の前を歩く。それが仕えるということでした。
危険があれば最初に受けます。道を切り開くのも先頭です。
猿田彦が外から迎えて導いたのに対し、アメノオシヒは内から守って進んだという違いがあります。
護衛という職能の起点が、この神に置かれています。
アメノオシヒの家系図と家族
アメノオシヒの性格と人物像
アメノオシヒは、装備で語られる神です。
台詞がありません。性格も記されません。あるのは、何を身につけて、どこに立ったかだけです。
しかしそれで十分でした。大伴氏にとって重要だったのは、祖が天孫の前に立っていたという一点です。
位置が身分を表しました。前に立つ者が、もっとも近い臣下です。
その位置を、神話にさかのぼって確保したことになります。
古事記と日本書紀でアメノオシヒの記述が異なるところ
日本神話は一冊にまとまっていません。アメノオシヒについても、 古事記と日本書紀で記述が分かれる箇所が1件あります。 どちらか一方に決めず、両方を出典つきで載せています。
記述が分かれるところ
古事記712年
上巻・天孫降臨の段
- アメノオシヒ ─ 対等の立場で先導する ─ アマツクメ
古事記では対等に書かれる。
日本書紀720年
巻第二・第九段 一書
- アメノオシヒ ─ 率いられる ─ アマツクメ
日本書紀では天槵津大来目が天忍日命に率いられたとする。
アメノオシヒを祀る神社
アメノオシヒを祀る社は、大伴氏ゆかりの地にわずかに残ります。
大伴氏は平安時代に衰え、伴(とも)氏と改称したのち、応天門の変で失脚しました。
そのため、この神を祀る社もほとんど残っていません。
奈良県の久米御縣神社など、久米氏に関わる社に伝えが残ります。
アメノオシヒが現代に残した痕跡
アメノオシヒの名は、大伴氏の歌に残りました。
海行かば: 大伴家持の歌。一族が代々受け継いだ誓いを詠む。昭和期に曲が付けられた。
久米: 奈良の地名。ともに先導した天津久米命の子孫、久米氏にちなむとされる。
アメノオシヒのご利益
武運長久
天孫を守って先導した武神であることによる。
厄除け
前に立って危険を受ける役目による。
アメノオシヒについてよくある質問
アメノオシヒとはどんな神様ですか。
天孫降臨のときニニギの前に立って先導した武神です。大伴氏の祖とされます。
なぜ装備が細かく書かれているのですか。
理由は分かっていませんが、武を担う一族の由緒を示す記述と考えられています。矢筒・大刀・弓・矢が一つずつ挙げられています。
猿田彦とはどう違うのですか。
猿田彦は外から迎えて導いた神、アメノオシヒは内から守って先頭を進んだ神です。役割が異なります。
アメノオシヒと併せて覚えたい言葉・用語
天孫降臨(てんそんこうりん)
アマテラスの孫ニニギが高天原から地上へ降りたこと。