天から水を持ち帰った神。アメノコヤネの子で、春日若宮の祭神。
アメノオシクモネとは何の神様か
アメノオシクモネはひとことで言えば水を運んだ神です。アメノコヤネの子で、中臣氏の系譜に位置します。
中臣寿詞の伝承によれば、天孫が降ったとき地上には荒い水しかなく、父の命を受けて高天原?から天津水を持ち帰り、皇孫に奉りました。
祭祀に用いる清らかな水を確保するという、地味ですが欠かせない役目です。
アメノオシクモネの漢字表記と読み方
読みは「あめのおしくもね」です。「オシ」は満ちる・多い、「クモ」は雲、「ネ」は親しみを込める語とされます。
天に満ちる雲という意味に読めます。
別名の天牟羅雲命も、群がる雲という同じ形をしています。
雲は水を運ぶものです。天津水を持ち帰ったという伝えと、名の意味がまっすぐつながっています。
天押雲根命(あめのおしくもねのみこと)
一般に用いられる表記。
天押雲命(あめのおしくものみこと)
短く記す形。
天牟羅雲命(あめのむらくものみこと)
中臣寿詞などでの名。
天二上命(あめのふたがみのみこと)
度会氏系図での別名。
アメノオシクモネの物語
天津水を持ち帰る
この神の唯一の事績が、水を運んだことです。
中臣寿詞や、京都府南丹市の摩氣神社の社伝はこう伝えます。
天孫が降ったとき、地上には未熟で荒い水しかなかった。
父の命により、高天原から天津水を持ち帰り、皇孫に奉った。
この水は天忍石長井水とも呼ばれます。
神に供える水は、どこの水でもよいわけではありません。
天から持ってきた水という由緒が、祭祀の正しさを保証します。中臣氏が祭祀を担う根拠のひとつが、この一話に置かれています。
若宮に祀られる
この神を祀る社には、はっきりした特徴があります。
春日大社 境内 若宮神社 ─ 奈良県奈良市。
枚岡神社 境内 若宮社 ─ 大阪府東大阪市。
吉田神社 境内 若宮社 ─ 京都市左京区。
大原野神社 境内 若宮社 ─ 京都市西京区。
いずれも若宮、つまり子の宮です。
父アメノコヤネを祀る春日系の社に、子としてこの神が並びます。関係そのものが社の配置になっているという形です。
ただし春日大社の若宮神社の現在の祭神は天押雲根命とされ、社によって扱いが分かれます。
讃岐と伊勢に伸びる系譜
なぜ記録が少ないのか
この神は、記紀に名が見えません。
中臣寿詞。
大同本紀。
各社の社伝と系図。
これらにしか現れないのです。
理由は、祝詞や系図が語る神だからだと考えられます。
記紀は物語を語る書です。一方、寿詞は祭祀の場で唱えられる文であり、系図は家の由緒を示す文書です。神話としての活躍がなくても、祭祀の手順や家の来歴を説明するために名が必要になります。
この神は、その必要から立てられた存在です。祀る社が全国に散らばりながら、いずれも境内の小さな社であることも、性格をよく表しています。
アメノオシクモネの家系図と家族
アメノオシクモネの性格と人物像
アメノオシクモネは、手続きの神です。
戦いません。誰かと争うことも、恋をすることもありません。ただ、天から水を汲んできて捧げました。それだけです。
しかしその一回の行いが、以後の祭祀すべての根拠になりました。
神に供える水がなぜ清いのかを説明するために、この神がいます。制度を成り立たせるために置かれた神であり、日本の神々のなかには、こうした役目の神が数多くいます。
アメノオシクモネを祀る神社
この神を祀るのは、春日大社の摂社若宮神社が代表です。同じ形の春日系の若宮が各地にあります。
奈良・京都・大阪・三重・香川・福岡と広く分布しますが、多くは境内社です。
京都府南丹市園部町の摩氣神社は、この神を主祭神とする数少ない社です。
香川県高松市の田村神社は讃岐国一宮で、この神を天五田根大神の名で伝えます。
春日大社 若宮神社(かすがたいしゃ わかみやじんじゃ)
春日大社の摂社
この神を主祭神とする社。若宮十五社めぐりの第一番。
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又見神社(またみじんじゃ)
香取神宮の摂社
この神を三柱の一柱として祀る。もとは若宮とも若御子神社ともいわれた。
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春日大社(かすがたいしゃ)
二十二社
父アメノコヤネを祀る。境内の若宮神社にこの神が祀られる。
世界文化遺産の構成資産。
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アメノオシクモネが現代に残した痕跡
アメノオシクモネの名は、祝詞に残りました。
中臣寿詞: 天皇の即位にあたって中臣氏が奏上した文。この神の水運びが語られる。
天忍石長井水: この神が高天原から持ち帰ったとされる水の名。
若宮: 子の神を祀る社。この神は父アメノコヤネの若宮として祀られる。
アメノオシクモネのご利益
水の恵み
天津水を持ち帰った伝えによる。
子孫繁栄
中臣氏の祖の一柱とされることによる。
アメノオシクモネについてよくある質問
アメノオシクモネとはどんな神様ですか。
アメノコヤネの子で、高天原から天津水を持ち帰って皇孫に奉ったと伝えられる神です。中臣氏の系譜に位置します。
なぜ若宮に祀られるのですか。
父アメノコヤネを祀る春日系の社に、子として並べられるためです。若宮とは子の神を祀る社を指します。
記紀に出てきますか。
記紀に名は見えません。中臣寿詞や各社の社伝、氏族の系図に現れる神です。
アメノオシクモネと併せて覚えたい言葉・用語
高天原(たかまがはら)
天上にある神々の国。アマテラスが治める。