対馬で信仰される神。天道信仰と結びつけられてきた。
タクズダマとは何の神様か
タクズダマはひとことで言えば国境の島の神です。主に対馬で信仰されます。
新撰姓氏録によれば、神魂命の子で、爪工連(つまたくみのむらじ)の祖とされます。
延喜式神名帳に記される多久頭神社は、対馬市豆酘の多久頭魂神社に比定されています。
タクズダマの漢字表記と読み方
読みは「たくずだま」です。「タク」は栲、つまり楮の繊維で織った布を指すとする説があります。
「ダマ(魂)」は霊です。
古くは「魂」の字を付けず、多久頭神社と称されました。
続日本後紀の承和四年(八三七年)二月五日条には、多久都神を無位から従五位下に叙する記述があり、この神を指すと考えられています。
多久頭魂神(たくずだまのかみ)
一般に用いられる表記。
多久頭神(たくずのかみ)
古い形。「魂」の字を付けない。
多久都神(たくつのかみ)
続日本後紀での表記。
天道大菩薩(てんどうだいぼさつ)
對州神社誌での呼び名。
タクズダマの物語
対馬という島
対馬は、九州と朝鮮半島のあいだにある島です。
博多から約一三〇キロメートル。釜山からは約五〇キロメートル。
朝鮮半島のほうが近いという位置にあります。
古代から、大陸との行き来の要でした。卜部という、亀の甲を焼いて占う職を出す島としても知られます。
この島には、独自の神が数多く伝わります。アメノヒノミタマを祀る阿麻氐留神社もそのひとつです。
タクズダマも、中央の神話とは別の系統に属する神です。
天道法師との混同
この神は、ある人物と重ねられてきました。
天道法師 ─ 対馬に伝わる伝説の僧。
對州神社誌には、この神が「天道大菩薩」と記されます。
神と僧が混同されているわけです。
対馬には天道信仰という独自の信仰があります。日の神を天道と呼び、山や森を聖域として立ち入りを禁じました。
この神は、その天道信仰の中心に位置づけられてきました。神仏習合が、島の信仰のなかで独自の形をとった例です。
母子の信仰
この神には、もうひとつの性格があります。
天神多久頭魂神社(対馬市上県町佐護)。
その付近にある神御魂神社の神魂命。
二柱をあわせて、母子の信仰が展開していたとされます。
新撰姓氏録は、この神を神魂命の子とします。つまり母と子です。
九州には、八幡信仰のような母子を祀る信仰が広く見られます。宇佐神宮では応神天皇と神功皇后が祀られます。
この神の信仰も、その系統に属すると考えられています。
奈良にも名が残る
この神の名は、奈良にも見えます。
石園座多久虫玉神社(奈良県大和高田市片塩町)。
社名の「虫」は「豆(づ)」の誤記であり、本来の祭神は多久頭魂神であったとする説があります。
対馬の神が、なぜ大和にいるのか。
爪工連という一族が、この神を祖としました。その一族が中央で仕えていたなら、神も一緒に移ります。
島の神が都に運ばれた痕跡が、社名の一字に残っているという見方です。
タクズダマの家系図と家族
タクズダマの性格と人物像
タクズダマは、境界の神です。
国のいちばん外側にある島で祀られました。中央の神話に組み込まれず、独自の天道信仰の中心となりました。僧と混同され、菩薩の名でも呼ばれました。
それでも、続日本後紀に神階を授けた記録が残っています。
中央から遠いことは、忘れられることを意味しません。遠いからこそ、独自のまま記録された神です。
タクズダマを祀る神社
この神を祀るのは、長崎県対馬市厳原町豆酘の多久頭魂神社です。延喜式神名帳の多久頭神社に比定されます。
対馬市上県町佐護の天神多久頭魂神社も、この神を祀ります。
奈良県大和高田市の石園座多久虫玉神社について、社名の「虫」は「豆」の誤記で、本来の祭神はこの神であったとする説があります。
多久頭魂神社(たくずたまじんじゃ)
式内社
この神の名を負う社。延喜式神名帳の多久頭神社に比定される。
周辺の宿をさがす
タクズダマが現代に残した痕跡
タクズダマの名は、対馬の天道信仰に残りました。
天道信仰: 対馬に伝わる独自の信仰。日の神を天道と呼び、山や森を聖域とした。
天道法師: 対馬の伝説の僧。この神と混同されてきた。
爪工連: この神を祖とする一族。新撰姓氏録に記される。
タクズダマのご利益
航海安全
対馬という海の要衝で祀られたことによる。
厄除け
天道信仰の中心に位置づけられたことによる。
タクズダマについてよくある質問
タクズダマとはどんな神様ですか。
主に対馬で信仰される神です。新撰姓氏録によれば神魂命の子で、爪工連の祖とされます。
天道法師と同じですか。
別です。ただし對州神社誌に「天道大菩薩」とあるように混同されることがありました。対馬の天道信仰と深く結びついています。
祀っている神社はどこですか。
長崎県対馬市厳原町豆酘の多久頭魂神社と、上県町佐護の天神多久頭魂神社です。