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ギリシャ神話

アマルテイアとは何の神様か|家系図・物語

Ἀμάλθεια  / アマルテイア

大地 原初の神

赤子のゼウスに乳を与えた者。折れた角が、尽きない豊かさの印になった。

アマルテイアとは何の神様か

アマルテイアはひとことで言えば最高神を育てた乳です。

クロノスに呑まれるのを免れ、クレタ島の洞窟に隠された赤子のゼウスを養いました。

正体は書物によって変わります。山羊そのものとする伝えと、山羊を飼っていたニンフとする伝えの二つがあり、古代の段階ですでに分かれています。

泣き声が父クロノスに届かないよう、若者たちが洞窟の外で盾を打ち鳴らして音を消したと語られます。

育ったゼウスは、この山羊の角を一本折り、

持ち主が望むものが、いくらでも湧き出るようにした。

これが豊穣の角です。果物と穀物があふれ出る角の意匠は、いまも豊かさの記号として世界中で使われています。

山羊の皮はアイギス(ゼウスの防具)になったとも、その姿は星に上げられたとも伝えられます。

最高神を育てた者が、最高神の武具と、人の食卓の両方になりました。

アマルテイアのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Ἀμάλθεια。日本語では「アマルテイア」と書きます。

名の意味ははっきりしません。「柔らかくする」「養う」を意味する語に結びつける説が知られていますが、決め手はありません。 育てる者の名として、後から意味を当てた可能性もあります。

この神で覚えておきたいのは、名前が物の名になったことです。折れた角は「アマルテイアの角」と呼ばれ、ローマ人はそれを自国の言葉に置き換えて「豊かさの角」と言いました。現代語で豊穣の角を指す語は、その置き換えのほうが残ったものです。

もう一つ、ゼウスの防具アイギスの名を、山羊を意味する語に結びつける読み方が古代からあります。育ての親の皮を身にまとって戦うという筋書きになりますが、これも確定した説ではありません。

Ἀμάλθεια(アマルテイア)

古代ギリシャ語の表記。「柔らかくする者」「養う者」と解する説があるが、語源は確定していない。

アマルテイアー(アマルテイアー)

長音を残した学術的な表記。

アマルテイアの角(アマルテイアのつの)

折れた角そのものを指す言い方。ローマではこれを「豊かさの角」と呼び、その名で現代語に残った。

アマルテイアの山羊(アマルテイアのやぎ)

ニンフとする伝えでは、乳を与えたのはこの女神が飼っていた山羊とされる。書物によって、名が山羊を指すか飼い主を指すかが変わる。

アマルテイアの物語

  1. クレタの洞窟 ─ 泣き声を盾で消す
  2. 折れた角 ─ 尽きない器の始まり
  3. 山羊か、ニンフか ─ 正体が定まらない神

クレタの洞窟 ─ 泣き声を盾で消す

クロノスは、生まれた子を次々に呑み込みました。六人目を身ごもったレアは、クレタ島でひそかに産み、赤子を隠します。

アポロドーロスは、その後をこう書きます。

レアは子をクレタの洞窟に隠し、 ニンフたちに養わせた。乳はアマルテイアという山羊のものだった。

問題は泣き声でした。父に聞かれれば終わりです。そこで、

武装した若者たちが洞窟の前で踊り、 槍で盾を打ち鳴らして声をかき消した。

この若者たちをクレテス(クーレテス)と呼びます。クレタ島には実際に、武具を打ち鳴らして踊る儀礼がありました。神話は、目の前にある祭りの由来を語っている形になっています。

赤子には蜜も与えられました。蜂が集めたとも、ニンフが運んだとも語られます。

乳と蜜。 ギリシャで最も基本的な二つの食べ物で、最高神は育てられました。神殿でも玉座でもなく、山羊一頭と洞窟が、この物語の始まりの場所です。

折れた角 ─ 尽きない器の始まり

角の話を詳しく書いているのは、オウィディウスの『祭暦』第5巻です。

クレタにアマルテイアというニンフがいて、名高い山羊を飼っていました。その山羊が、木にぶつかって片方の角を折ってしまいます。ニンフはその角を拾い、

木の葉で飾り、果物を盛って、幼い神のもとへ運んだ。

神になったゼウスは礼として、その角が何度でも満たされるようにしたと詩は続けます。そして山羊とニンフを星に上げました。

これが豊穣の角です。

ややこしいのは、同じ由来がもう一つあることです。河神アケロオスヘラクレスと戦って角を折られたとき、その角に泉のニンフたちが果実を盛って豊穣の角にした、とオウィディウスは『変身物語』で書いています。

同じ詩人が、二つの由来を別々の作品に書いています。 どちらが本来かを決める材料はありません。

この意匠は途切れずに使われ続けました。豊かさや実りを表す紋章、貨幣の図、彫像の持ち物として、いまも見ることができます。

山羊か、ニンフか ─ 正体が定まらない神

この存在の正体は、古代の段階ですでに二つに割れています。

アポロドーロスは、アマルテイアを山羊の名として書きます。育てたのはアドラステイアとイデという二人のニンフで、その乳を出したのがこの山羊です。

オウィディウスは、アマルテイアをニンフの名として書きます。山羊はその飼い主のものです。

一方では山羊が神になり、 一方ではニンフが山羊を飼っている。

どちらが古いかは決まっていません。乳を与えた側を人格として立てるか、獣のままにするかという違いです。

資料が少ないのではなく、資料が食い違っているのがこの神の特徴です。

理由は想像がつきます。この存在は物語の主人公ではなく、ゼウスの幼年時代を成り立たせるための装置として語られてきました。装置の細部は、語り手ごとに変わります。

それでも消えなかったのは、折れた角という具体的な物が残ったからです。神話の筋よりも、意匠のほうが長生きした例と言えます。

アマルテイアの家系図と家族

アマルテイアの性格と人物像

アマルテイアには、台詞も意志もありません。

乳を与え、角を折られ、星に上げられる。それだけです。山羊とする伝えでは、そもそも人格がありません。

それでも、この存在はギリシャ神話の土台に置かれています。 アマルテイアが乳を与えなければゼウスは育たず、ティタンとの戦いも、オリュンポスの体制もありません。神話全体が、山羊一頭の上に乗っています。

性格として語れることがあるとすれば、見返りを求めていないことでしょう。育てた相手に何かを要求した場面がありません。角を折ったのはゼウスの側で、それに対する抗議もありません。

そして、報いは物の形で与えられました。 尽きない角と、星の座です。

ギリシャの神々は、恩に報いるとき相手を神にしたり、権能を与えたりします。この存在に与えられたのは、「与え続ける器」そのものでした。役目がそのまま褒美になっています。

育てる働きだけでできている存在です。それ以上の説明を、原典は必要としていません。

アマルテイアゆかりの地と遺跡

アマルテイアを祀った神殿は確かめられませんでした。

この存在の場所として語られるのは、クレタ島の洞窟です。イデ山の洞窟とディクテ山の洞窟が候補として挙げられ、どちらも古くから祀りの跡が見つかっています。ただし、いずれが伝承の洞窟かを一次の資料で確定できなかったため、住所はここに書きません。

祀られたのは、あくまでゼウスの幼年時代の場所としてでした。乳を与えた者そのものへの祀りは、記録として残っていません。

そのかわり、この存在は意匠として残りました。 豊穣の角を持つ像や浮き彫りは、ギリシャからローマ、そして近世のヨーロッパまで途切れずに作られています。神殿を持たないのに、姿を見る機会だけは多い存在です。

アマルテイアが現代に残した痕跡

アマルテイアの名は、豊かさの記号空の名として現代に残りました。

豊穣の角: 果物と穀物があふれ出る角の意匠。紋章や貨幣の図、彫像の持ち物として今も使われる。名はローマ人の言い換えのほうが広まった。

木星の衛星アマルテア: 1892年に見つかった木星の内側の衛星の名。木星を回る衛星のなかでは早くに発見されたものにあたる。

ぎょしゃ座の「山羊の星」: ぎょしゃ座でもっとも明るい星は「雌山羊」を意味する名で呼ばれ、古代からアマルテイアの山羊と結びつけられてきた。

アイギスという語: ゼウスの防具の名を、山羊を意味する語に結びつける読み方が古代からある。育ての親の皮をまとうという筋書きになる。

アマルテイアが司るもの

養育

赤子のゼウスに乳を与えて育てた。最高神の幼年時代を支えた存在にあたる。

授乳

乳と蜜で神を養ったという筋書きは、この存在の中心にある。

豊穣

折れた角は、望むものがいくらでも湧き出る器になったと伝えられる。

あり余る豊かさ

果物と穀物があふれ出る角の意匠は、いまも豊かさの記号として使われている。

養う力

報いとして与えられたのが「与え続ける器」だった点に、この存在の性格が表れている。

アマルテイアについてよくある質問

アマルテイアは山羊ですか、ニンフですか。

どちらの伝えもあります。アポロドーロスは山羊の名として書き、オウィディウスはニンフの名として書きました。古代の段階ですでに二つに分かれており、どちらが古いかは決まっていません。

豊穣の角とは何ですか。

折れた山羊の角に、望むものがいくらでも湧き出る力を与えたものです。オウィディウスは『祭暦』でこの由来を書いています。ただし河神アケロオスの角を由来とする別の話も、同じ詩人が書いています。

なぜ盾を打ち鳴らしたのですか。

赤子ゼウスの泣き声が父クロノスに届かないようにするためです。洞窟の前で武装した若者たちが踊り、槍で盾を打って音をかき消したと伝えられます。クレタ島に実際にあった儀礼と結びついています。

星になったというのは本当ですか。

そう伝える書物があります。ぎょしゃ座でもっとも明るい星は「雌山羊」を意味する名で呼ばれ、古代からこの山羊と結びつけられてきました。木星の衛星の一つにも、この名が付いています。

祀られた場所はありますか。

確かめられませんでした。クレタ島の洞窟が伝承の地とされ、祀りの跡も見つかっていますが、どの洞窟かを確定できる資料に当たれませんでした。

アマルテイアと併せて覚えたい言葉・用語

ニンフ(Νύμφη)

山・森・泉・木に宿る若い女神たち。神ではあるが不死ではなく、宿る木や泉が滅べば死ぬとされた。ギリシャ神話で最も数の多い存在。