黄泉の穢れから生まれた災いの神。すべての災厄の源。
ヤソマガツヒとは何の神様か
ヤソマガツヒの漢字表記と読み方
読みは「やそまがつひ」です。「ヤソ(八十)」は数の多さを表す言い方で、実数ではありません。
「マガ」は禍(わざわい)、「ツ」は〜の、「ヒ」は霊力です。
つまり数え切れない災いの霊力という意味です。
「マガ」は、いまも「まがまがしい」という語に残っています。不吉で、忌まわしいという意味です。
八十禍津日神(やそまがつひのかみ)
古事記での表記。
八十枉津日神(やそまがつひのかみ)
日本書紀での表記。
大禍津日神(おおまがつひのかみ)
対になる神。同じ場面で生まれる。
ヤソマガツヒの物語
穢れから生まれる
イザナギは、黄泉の国?から帰りました。そして言います。
吾は、いなしこめしこめき穢き国に到りて在りけり。故、吾は御身の禊?せむ。
ひどく汚い国へ行ってしまった。だから身を清めようという意味です。
川に入って身を洗うと、黄泉の穢れから二柱の神が生まれました。
八十禍津日神
大禍津日神
この二柱が、あらゆる災いの源とされます。
直す神がすぐ生まれる
災いの神が生まれた直後、古事記は続けます。
その禍を直さむとして成りませる神の名は…
その禍を直そうとして生まれた神として、三柱が現れます。
神直毘神
大直毘神
伊豆能売
悪が生まれた瞬間に、それを正す働きも生まれる。
善と悪が別々に存在するのではなく、対になっているという考え方です。日本の信仰の特徴がよく表れた場面です。
祓えばよい、という考え方
日本の信仰では、罪や穢れは取り除けるとされます。
悔い改める、のではない。
償う、のでもない。
洗い流す。
災いの神がいても、直す神がいるので問題ない。この構造が、祓いという考え方の根拠になっています。
悪を根絶するのではなく、そのつど清める。大祓が年に二回、繰り返し行われるのはそのためです。
一度で終わる話ではないという前提に立っています。
神として祀られる
災いの神でありながら、社に祀られています。
京都の下鴨神社の摂社、大阪の座摩神社など。
なぜ災いの神を祀るのか。
災いを起こす力を持つ神に祈ることで、その力を抑えてもらうという考え方です。
火の神カグツチに火伏せを祈り、風の神に「荒れないでください」と祈るのと同じ形です。力の強い神ほど、丁重に扱うという原則が働いています。
ヤソマガツヒの家系図と家族
ヤソマガツヒの性格と人物像
ヤソマガツヒは、必要とされた悪です。
物語も台詞もありません。生まれた、それだけです。
しかし置かれた位置に意味があります。災いには原因がなければなりません。なぜ不幸が起きるのかという問いに、この神が答えを与えました。
そして直後に、それを直す神が生まれます。
災いを説明しつつ、絶望させない。この二段構えが、日本神話の悪の扱い方です。
ヤソマガツヒを祀る神社
ヤソマガツヒを祀る社は、多くありません。摂社や末社として祀られる例が中心です。
京都の下鴨神社、大阪の座摩神社などに祀られています。
災いの神を祀るのは、その力を抑えてもらうためです。火の神に火伏せを祈るのと同じ形で、日本の信仰の基本的な考え方です。
ヤソマガツヒが現代に残した痕跡
ヤソマガツヒの名は、言葉に残りました。
まがまがしい: 「マガ(禍)」に由来する語。不吉で忌まわしいという意味。
大祓: 六月と十二月の末に行う祓いの行事。穢れを繰り返し清める。
ヤソマガツヒのご利益
厄除け
災いを起こす神に祈って抑えてもらうという考え方による。
禊祓
祓いの体系のなかに置かれた神であることによる。
ヤソマガツヒについてよくある質問
ヤソマガツヒとはどんな神様ですか。
イザナギが黄泉の穢れを洗い落としたとき、その汚れから生まれた災いの神です。名は「数え切れない災いの霊力」を意味します。
なぜ災いの神を祀るのですか。
災いを起こす力を持つ神に祈ることで、その力を抑えてもらうという考え方によります。火の神に火伏せを祈るのと同じ形です。
悪い神なのですか。
災いの源とされますが、直後に「その禍を直そうとして」直毘神が生まれます。悪と、それを正す働きが対になった構成です。
ヤソマガツヒと併せて覚えたい言葉・用語
黄泉の国(よみのくに)
死者が行く地下の国。イザナミが去った先。
禊(みそぎ)
水で身を洗い、穢れを落とすこと。イザナギはこれによって三貴子を生んだ。