船そのものを神にしたもの。タケミカヅチに従って出雲へ降った。
天鳥船とは何の神様か
天鳥船の漢字表記と読み方
読みは「あめのとりふね」です。正式な名は「とりのいわくすふね」です。
名を分解すると、船の性質がそのまま出てきます。
トリ ─ 鳥のように速い
イワ ─ 岩のように堅い
クス ─ 楠(くすのき)
楠は、舟材として最上とされた木です。大木になり、水に強く、腐りにくいためです。
つまりこの名は、理想の船の仕様を並べたものです。
鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)
古事記での正式な表記。
天鳥船神(あめのとりふねのかみ)
古事記が併記する別名。
天磐櫲樟船(あめのいわくすふね)
日本書紀での表記。
天鳥船の物語
イザナギとイザナミが産む
この神は、国生みのあとの神生みで生まれました。
家、門、屋根、風、木、山、野…
イザナギとイザナミは、暮らしに関わるものを次々と神として産みます。
その流れのなかに、鳥之石楠船神があります。
つまり船は、家や門と同じ扱いです。
生活に欠かせない道具として、神の列に並べられました。日本の神が物にも宿ることを示す例です。
国譲りに随行する
国譲りの使者として、タケミカヅチが選ばれました。そのとき古事記はこう記します。
建御雷神を遣はすべし。また天鳥船神を建御雷神に副へて遣はしき。
タケミカヅチに天鳥船を副えて遣わしたという書き方です。
「乗った」ではなく「副えた」。
船が同行者として扱われています。
このあと、事代主に話を聞きに行く場面でも、天鳥船が遣わされます。使いとしても働いているわけです。
なぜ船が神なのか
古代の日本において、船は最先端の技術でした。
大木をくり抜く。継ぎ合わせる。水を防ぐ。帆を張る。
一隻の船を作るには、多くの技術と時間が要ります。
そして船があれば、海を渡り、物を運び、遠くと交易できます。
持つ者と持たない者で、力の差が決定的につきました。
価値の高いものが神格化されるのは、剣や鏡と同じ理屈です。船もまた、神になるだけの重さを持っていました。
空を飛ぶ船
天鳥船は、天と地を行き来します。
高天原?から、葦原中国?へ。
水の上だけでなく、空を渡る船として描かれています。
ニギハヤヒが乗ってきた天磐船(あめのいわふね)も同じ系統です。
各地に「岩船」「天の磐船」と呼ばれる巨岩があり、神が乗ってきた船が石になったと伝えられます。大阪の磐船神社などが知られます。
空を飛ぶ乗り物という発想が、記紀の段階からあったことになります。
天鳥船の家系図と家族
天鳥船の性格と人物像
天鳥船は、物でありながら神であるという存在です。
意思も台詞もありません。しかし「副えて遣わす」と書かれ、使いとして働いています。
道具と神の境目が、はっきりしていません。
日本では、長く使った道具に魂が宿るという考えがあります。付喪神(つくもがみ)です。
その発想のもっとも古い形が、この神に見えます。優れた道具は、それだけで神になり得たわけです。
天鳥船を祀る神社
天鳥船を祀る社は、多くありません。
大阪府交野市の磐船神社は、ニギハヤヒが乗った天磐船が石になったと伝える巨岩を神体とします。
茨城県の大洗磯前神社など、海に面した社の摂社に祀られる例があります。
鹿島神宮では、タケミカヅチに随行した神として名が挙がります。
天鳥船が現代に残した痕跡
天鳥船の名は、岩船の伝承に残りました。
天磐船: ニギハヤヒが乗ってきたとされる船。各地に巨岩の伝承地がある。
楠(くすのき): 舟材として最上とされた木。名に含まれる。
付喪神: 長く使った道具に魂が宿るという考え。物が神になる発想の系譜。
天鳥船のご利益
海上安全
船を神格化した存在であることによる。
交通安全
乗り物の神とされることによる。
技芸上達
造船の技術に関わることによる。
天鳥船についてよくある質問
天鳥船とはどんな神様ですか。
船を神格化した神です。イザナギとイザナミが産んだ神のひとつで、国譲りのときタケミカヅチに副えて遣わされました。
なぜ船が神なのですか。
古代において船は最先端の技術であり、持つ者と持たない者で力の差が決定的につきました。価値の高いものが神格化される点は、剣や鏡と同じです。
空を飛ぶのですか。
高天原から地上へ降りると記されるため、空を渡る船として描かれています。各地に「岩船」と呼ばれる巨岩の伝承があります。
天鳥船と併せて覚えたい言葉・用語
国譲り(くにゆずり)
オオクニヌシが葦原中国の統治権を天津神に明け渡した出来事。
葦原中国(あしはらのなかつくに)
高天原と黄泉の国の間にある地上の世界。のちの日本の国土にあたる。
高天原(たかまがはら)
天上にある神々の国。アマテラスが治める。