山を司る神。二人の娘を天孫に差し出した。

「神仏図会 大山祇神」 / パブリックドメイン 出典
オオヤマツミとは何の神様か
オオヤマツミはひとことで言えば山の神です。名の「ツミ」は「霊」を意味し、山に宿る力そのものを表します。日本の山を統べる神として、全国の山に関わる社で祀られています。
もうひとつの重要な性格が酒の神であることです。娘コノハナサクヤヒメが子を産んだとき、喜んだこの神が狭名田の稲で天甜酒を醸して祝ったと記されます。日本で酒を造った最初の記述であり、酒造の神とされる由来になっています。
さらに軍神としても信仰されました。愛媛の大山祇神社には歴代の武将が武具を奉納し、国宝・重要文化財に指定された甲冑や刀剣が国内最多級で残されています。
物語における役割は、ニニギに二人の娘を差し出したことです。この一件によって人に寿命が生まれました。
オオヤマツミの漢字表記と読み方
読みは「おおやまつみ」です。「ツミ」は「霊(ち)」と同じく、そのものに宿る力を指す古い語とされます。海の神オオワタツミと対になる名であり、山と海を統べる一対の神として並べて語られます。
大山津見神(おおやまつみのかみ)
古事記での表記。
大山祇神(おおやまづみのかみ)
日本書紀での表記。大山祇神社の社名にも用いられる。
和多志大神(わたしのおおかみ)
伊予国風土記に見える呼び名。海を渡ってきた神という意を含むとされる。
三嶋大明神(みしまだいみょうじん)
三嶋大社での呼び名。伊豆の三嶋信仰と結びついた形。
オオヤマツミの物語
生まれ ─ 国生みの直後に現れる
娘たち ─ 二人の姫を天孫へ
物語の中心となるのは、天孫ニニギとの関わりです。
地上に降りたニニギが笠沙の岬で美しい娘に出会い、名を問うと「オオヤマツミの娘、コノハナサクヤヒメ」と答えました。ニニギが求婚すると、姫は「父に聞いてください」と返します。
オオヤマツミは大いに喜び、多くの引き出物を添えて娘を差し出しました。ただし、姉のイワナガヒメも一緒に送ります。
これには明確な意図がありました。
姉を返される ─ 人に寿命が生まれる
ニニギは姉イワナガヒメを見て、容姿が良くないという理由で父のもとへ送り返してしまいます。妹だけを留めました。
これを知ったオオヤマツミは、深く恥じてこう告げます。
私が二人を揃えて差し上げたのには理由があります。イワナガヒメを召せば、天孫の御命は雪が降り風が吹いても岩のように永く揺るがぬものとなり、コノハナサクヤヒメを召せば、木の花が咲くように栄えるはずでした。
今、姉を返して妹だけを留めたので、天孫の御命は木の花のように儚いものとなるでしょう。
これによって歴代の天皇は、永遠の命ではなく限りある寿命を持つことになりました。
人がなぜ死ぬのかを説明する神話であり、その理由を告げる役をこの神が担っています。
酒を醸す ─ 日本最初の酒造
コノハナサクヤヒメが燃える産屋で三柱の子を無事に産んだとき、オオヤマツミは大いに喜びました。
狭名田の稲を用いて天甜酒を醸し、これを捧げて祝ったと日本書紀は記します。
日本神話における最初の酒造りの記述であり、この神が酒造の神とされる由来になっています。今も酒造関係者の信仰を集めています。
オオヤマツミの家系図と家族
オオヤマツミの性格と人物像
オオヤマツミは、物語のなかで結果を告げる役割を担う神です。
自ら動く場面はほとんどありません。娘を差し出し、返され、その意味を言葉で告げる。しかしその一言によって、人が死ぬ世界が確定します。
注目すべきは、この神が怒って呪ったのではないことです。「イワナガヒメを召せばこうなるはずだった」と、選択の結果を説明しただけです。罰ではなく因果として語られています。
そして娘が子を産めば酒を醸して祝う。山を統べ、酒を造り、多くの神の外祖父となる。日本神話における年長者の位置に、この神は立っています。
オオヤマツミを祀る神社
オオヤマツミを祀る社は、「三島」「三嶋」「山祇」の名を持つ社として全国に広がっています。およそ1万社あるとされ、その総本社が愛媛の大山祇神社です。
山の神でありながら瀬戸内の島に鎮座し、伊豆にも大きな社を持つ。山と海の両方にまたがって信仰されているのがこの神の特徴です。
大山祇神社(おおやまづみじんじゃ)
伊予国一宮/全国の山祇神社・三島神社の総本社
瀬戸内海の大三島に鎮座する、オオヤマツミを祀る社の中心です。全国におよそ1万社あるとされる山祇神社・三島神社の総本社にあたります。
特筆すべきは武具の奉納です。源義経、源頼朝、木曾義仲ら歴代の武将が戦勝を祈って甲冑や刀剣を奉納しました。国宝・重要文化財に指定された武具のおよそ8割がこの社に集中しているとされ、国内最大の武具コレクションを有します。
境内には樹齢2600年と伝わる大楠があり、国の天然記念物に指定されています。
宝物館に国宝・重要文化財の武具が多数展示されている。しまなみ海道でアクセスできる。
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三嶋大社(みしまたいしゃ)
伊豆国一宮
伊豆を代表する社で、オオヤマツミとコトシロヌシの二柱をあわせて三嶋大明神と称します。
源頼朝が挙兵にあたって祈願した社として知られます。伊豆に流されていた頼朝は百日詣を行い、平家打倒を祈って挙兵しました。以後、武家の信仰を篤く集めています。
境内の金木犀は樹齢1200年と伝わり、国の天然記念物です。開花期には遠くまで香りが届くといわれます。
三島駅から徒歩7分。頼朝ゆかりの社として大河ドラマの舞台にもなった。
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梅宮大社(うめのみやたいしゃ)
酒造と子授けの社
オオヤマツミを酒解神の名で祀る社です。娘の出産を祝って酒を醸したという記述にちなみ、酒造の神として信仰されてきました。
あわせて子授け・安産の信仰でも知られます。本殿の横にある「またげ石」をまたぐと子を授かるという伝えがあり、社務所で祈祷を受けたうえで行う習わしです。
境内は猫が多く暮らすことでも知られています。
神苑の花菖蒲と紫陽花が名高い。京都の酒造関係者の信仰を集める。
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オオヤマツミが現代に残した痕跡
オオヤマツミの名は、山の神と酒に残りました。
全国の山の神: 山を統べる神として、各地の山の神信仰の中心に置かれる。
大山祇神社: 愛媛県今治市大三島。武具の奉納品が多数残り、国宝・重文の甲冑の約4割が集まるとされる。
酒解神: 孫の誕生を祝って酒を造ったとされ、酒造の神としても祀られる。
三嶋大社: 静岡県三島市。伊豆の一宮で、源頼朝の挙兵の際の祈願で知られる。
オオヤマツミのご利益
山林守護・登山安全
山々を統べる神であることによる。林業関係者の信仰が篤い。
酒造守護
娘の出産を祝って天甜酒を醸したという記述による。日本最初の酒造とされる。
武運・勝運
大山祇神社に歴代の武将が武具を奉納した歴史による。
海上安全
瀬戸内の島に鎮座し、水軍の信仰を集めたことによる。
縁結び・子授け
多くの神の外祖父にあたることによる。
オオヤマツミが登場するゲーム・アニメ
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オオヤマツミについてよくある質問
オオヤマツミは何の神様ですか。
山々を統べる神です。あわせて酒造の神、武運の神としても信仰されています。
オオヤマツミの娘は誰ですか。
コノハナサクヤヒメとイワナガヒメが知られます。スサノオの妻となったカムオオイチヒメも娘とされます。
なぜ人に寿命ができたのですか。
ニニギがイワナガヒメを容姿を理由に送り返したためです。オオヤマツミは「姉を召せば命は岩のように揺るがず、妹だけなら木の花のように儚くなる」と告げました。
なぜ酒の神なのですか。
娘コノハナサクヤヒメの出産を祝い、狭名田の稲で天甜酒を醸したと日本書紀が記すためです。日本最初の酒造りの記述にあたります。
オオヤマツミを祀る神社はどこですか。
愛媛県今治市の大山祇神社が総本社です。静岡の三嶋大社、京都の梅宮大社も知られます。