日本書紀の食物の神。ツクヨミに斬られる。

ウケモチとは何の神様か
ウケモチの漢字表記と読み方
読みは「うけもち」です。「ウケ(食)」は食べ物を意味する古語で、豊受大神の「ウケ」、宇迦之御魂神の「ウカ」と同じ語です。
この語の共通性から、食物に関わる神々が後世に混同・同一視されていきました。 ウケモチ、オオゲツヒメ、トヨウケ、ウカノミタマ。別の神なのか、同じ神の別名なのかが判然としないのが、日本の食物神の特徴です。
保食神(うけもちのかみ)
日本書紀での表記。古事記には登場しない。
大気都比売神(おおげつひめのかみ)
古事記における対応する神。名は異なるが同じ筋の話に登場する。
宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)
稲荷の祭神。「ウケ」と「ウカ」が通じることから、後世に同一視された。
豊受大神(とようけのおおかみ)
伊勢神宮外宮の祭神。「ウケ」が共通することから、同一視する説がある。
ウケモチの物語
アマテラスがツクヨミを遣わす
日本書紀の一書?に、こう記されます。
アマテラスがツクヨミに言った。「葦原中国?にウケモチという神がいると聞いている。 行って見てきなさい」
ツクヨミは命を受けて地上へ降ります。
ツクヨミが動く、数少ない場面です。この神には物語がほとんどなく、事績と呼べるものはこの一件だけといえます。
もてなす ─ 体から食物を出す
ウケモチはツクヨミを迎え、もてなそうとしました。
陸を向くと、口から飯が出てきた。海を向くと、口から大小の魚が出てきた。山を向くと、口から毛の粗い獣と毛の柔らかい獣が出てきた。
それらをすべて並べ、百の机に載せてふるまいました。
体から食物を出すという行為は、この神が食物そのものであることを示しています。最大限のもてなしだったはずです。
斬られる ─ そして日と月が分かれる
ツクヨミは激怒しました。
汚らわしい。卑しい。口から吐き出したものを、私に食べさせようというのか。
そう言って剣を抜き、ウケモチを斬り殺してしまいます。
報告を受けたアマテラスは、激しく怒りました。
おまえは悪い神だ。もう会わない。
そして日と月は、一日一夜を隔てて離れ住むことになりました。
昼と夜が分かれた理由が、この一件に求められています。日食や、太陽と月が同時に見えないことを説明する神話です。
死体から五穀が生まれる ─ 農業と養蚕の起源
アマテラスは別の使者を遣わし、ウケモチの様子を見に行かせました。
すでに死んでいましたが、その体からは──
頭に牛馬、額に粟、眉に蚕、目に稗、腹に稲、陰に麦と大豆小豆が生じていた。
アマテラスは喜び、こう言いました。
これらは人民が生きていくために食べるものである。
そして粟・稗・麦・豆を畑の種とし、稲を水田の種としました。さらに蚕を口に含んで糸を引き出し、養蚕が始まったとされます。
日本の農業と養蚕は、この神の死体から始まりました。
ウケモチの家系図と家族
ウケモチの性格と人物像
ウケモチは、最大限のもてなしをして殺された神です。
アマテラスの使者を迎え、体のすべてを使って食物を差し出しました。台詞は一言も記されていません。抵抗も弁明もありません。
殺した側にも悪意はありませんでした。ツクヨミは汚いものを出されたと本気で思ったのです。双方に悪意がないのに、最悪の結果になる。
そして死体から五穀と養蚕が生まれ、日と月は永久に分かれました。
一度の誤解が、農業の起源と、昼夜の別れという二つの結果を同時に生んでいます。 日本神話のなかでも、これほど大きな帰結を持つ短い話は他にありません。
古事記と日本書紀でウケモチの記述が異なるところ
日本神話は一冊にまとまっていません。ウケモチについても、 古事記と日本書紀で記述が分かれる箇所が1件あります。 どちらか一方に決めず、両方を出典つきで載せています。
食物の女神を斬ったのは、スサノオかツクヨミか
古事記712年
上巻・大気都比売の段
- スサノオ ─ 斬る ─ オオゲツヒメ
古事記では、食物を体から出してもてなしたオオゲツヒメをスサノオが斬る。その亡骸から五穀が生まれた。
日本書紀720年
巻第一・第五段 一書
- ツクヨミ ─ 斬る ─ ウケモチ
日本書紀では同じ話をツクヨミが行う。これを知ったアマテラスが怒り、日と月は昼夜に分かれて出会わなくなった。
ウケモチを祀る神社
ウケモチを主祭神とする社は多くありません。 日本書紀の一書にしか登場せず、しかも殺される役だからです。
代わりに、名の「ウケ(食)」が共通するトヨウケやウカノミタマと同一視され、伊勢の外宮や全国の稲荷社で祀られる形になりました。
各地の稲荷社で祭神が「保食神」と記されている場合、この同一視によるものです。別の神なのか同じ神なのかは、はっきりしていません。
豊受大神宮(伊勢神宮 外宮)(とようけだいじんぐう げくう)
伊勢神宮の外宮
伊勢神宮の外宮で、豊受大御神を祀ります。アマテラスの食事を司る神として、雄略天皇の代に丹波から迎えられたと伝わります。
「ウケ」が共通することから、ウケモチと同一視する説があります。ただし記紀の系譜では別の神であり、同一視は後世の解釈です。
伊勢神宮の参拝は、外宮を先に、内宮を後にという順序が古くからの習わしです。
食を司る神であることから、飲食業や農業の関係者の参拝が多い社です。
内宮とは約6キロ離れている。20年ごとの式年遷宮が続く。
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伏見稲荷大社(ふしみいなりたいしゃ)
全国約3万社の稲荷神社の総本宮
全国の稲荷神社の総本宮です。主祭神は宇迦之御魂大神で、「ウカ」は「ウケ」と同じく食物を意味します。
この語の共通性から、ウケモチと宇迦之御魂神は後世に同一視されました。 各地の稲荷社で「保食神」を祭神とする例があるのはこのためです。
山全体に約一万基の千本鳥居が連なる景観で知られ、外国人観光客に最も人気のある日本の観光地とされます。
もとは稲作の神でしたが、商業の発展とともに商売繁盛の神として広がりました。
山頂まで約2時間の「お山めぐり」ができる。JR稲荷駅からすぐ。
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ウケモチが現代に残した痕跡
ウケモチの名は、稲荷信仰と昼夜の別れに残りました。
稲荷神との習合: 食物の神として、のちにウカノミタマ(稲荷神)と重ねられた。全国約3万社の稲荷社はこの系譜。
昼と夜が分かれた理由: ツクヨミがこの神を斬ったことに怒ったアマテラスが、二度と会わないと言った。太陽と月が同時に空にいない理由を説明する物語。
外宮の豊受大神: 伊勢神宮外宮の豊受大神も食物の神で、同系統として語られることがある。
ウケモチのご利益
五穀豊穣・農業守護
死体から五穀が生じたことによる。
養蚕・織物守護
眉から蚕が生じ、養蚕が始まったことによる。
食物守護・飲食業
食物そのものを司る神であることによる。
商売繁盛
稲荷信仰と習合した流れによる。
ウケモチが登場するゲーム・アニメ
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ウケモチについてよくある質問
ウケモチは何の神様ですか。
食物の神です。死体から五穀と蚕が生まれ、日本の農業と養蚕の起源とされます。
ウケモチを殺したのは誰ですか。
ツクヨミです。体から食物を出してもてなされたことを汚らわしいと考え、剣で斬り殺しました。
なぜ日と月は分かれたのですか。
ツクヨミがウケモチを殺したことを知ったアマテラスが激怒し、「もう会わない」と告げたためです。以来、日と月は一日一夜を隔てて離れ住むことになりました。
オオゲツヒメと同じ神ですか。
同じ筋の話に登場する神ですが、名も書物も異なります。古事記ではスサノオがオオゲツヒメを斬り、日本書紀ではツクヨミがウケモチを斬ります。担い手と被害者の名が入れ替わっています。
ウケモチを祀る神社はどこですか。
単独で祀る社は多くありません。名の「ウケ」が共通する豊受大神や宇迦之御魂神と同一視され、伊勢神宮外宮や全国の稲荷神社で祀られる形になっています。
ウケモチと併せて覚えたい言葉・用語
一書(あるふみ)
日本書紀が本文とは別に併記する異伝。「一書に曰く」の形で複数載る。
葦原中国(あしはらのなかつくに)
高天原と黄泉の国の間にある地上の世界。のちの日本の国土にあたる。