オオヤマツミの娘。スサノオとの間にオオトシとウカノミタマを生む。
カムオオイチヒメとは何の神様か
カムオオイチヒメの漢字表記と読み方
読みは「かむおおいちひめ」です。「カム」は神、「オオ」は立派な、「イチ」は市を指します。
「カム」は、神霊の働きの激しさを畏れて頭に付ける語です。カムムスヒやカムヤマトイワレビコにも同じ形が入っています。
名義は「神々しく立派な市」と考えられています。
社では大歳御祖神の名で祀られることが多く、こちらはオオトシの母という関係を示す呼び名です。
神大市比売(かむおおいちひめ)
古事記での表記。
大歳御祖神(おおとしみおやのかみ)
社で祀られるときの神名。オオトシの母という意味。
大市姫命(おおいちひめのみこと)
後世の文献での表記。
カムオオイチヒメの物語
二番目の妻
古事記のスサノオの系譜で、この女神はクシナダヒメの次に現れます。
クシナダヒメ ─ ヤマタノオロチから救われた娘。物語を持つ。
カムオオイチヒメ ─ 系譜に名が出るだけ。物語を持たない。
同じ妻でも、記述の量がまったく違います。
しかし生まれた子で比べると、話が変わります。この女神が生んだウカノミタマは、のちに稲荷神として全国に広がり、日本でもっとも社の数が多い神になりました。
母は書かれず、子が大きくなったという形です。
なぜ山の神の娘が市の神なのか
父のオオヤマツミは山の神です。娘が市の名を持つのは、一見つながりません。
しかし古代の市は、山の産物と海や里の産物を交換する場でした。
山から ─ 木、獣、鉱物、薬草。
里から ─ 米、布。
海から ─ 塩、魚。
山の神は、交換される品の半分を出す側だったのです。
そのため、この女神をオオヤマツミの分身とみる解釈があります。市の守護神として信仰されるのは、この筋によります。
実りの神を二柱生む
生んだ二柱は、どちらも食べ物に関わります。
オオトシ(大年神) ─ その年の穀物の実り。
ウカノミタマ(宇迦之御魂神) ─ 稲そのものの霊。
「トシ」は年であると同時に、その年の稲を指す語でした。「ウカ」も食物を指します。
つまり、この女神は穀物の神を二柱まとめて生んだことになります。
母自身が農耕神・食料神として信仰されるのは、この系譜によります。
大市という地名
「大市」は地名としても残っています。
奈良県桜井市の箸墓古墳は、宮内庁の治定名を大市墓といいます。三世紀中頃の築造とされる、初期の大型前方後円墳です。
大きな市が立った土地。
神名と地名のどちらが先かは、決めることができません。
また、伏見稲荷大社の上社の祭神大宮能売大神について、二十二社註式や稲荷神社考は大市姫命を当てています。娘が広めた稲荷の社に、母の名が別の形で残っているという見方です。
カムオオイチヒメの家系図と家族
カムオオイチヒメの性格と人物像
カムオオイチヒメは、子で語られる神です。
事績はありません。夫とのやりとりも、生まれの経緯も記されていません。分かるのは、オオヤマツミの娘であることと、二柱の穀物神を生んだことだけです。
しかし生んだ子のうち一柱は、全国に三万社を超えるとされる稲荷の神になりました。
書かれた量と、後世の広がりが逆になっている神です。系譜の一行だけで置かれた存在が、信仰の根に残った例といえます。
カムオオイチヒメを祀る神社
この女神は、大歳御祖神の名で祀られることが多い神です。
静岡浅間神社の境内にある大歳御祖神社、京都の市比賣神社、大阪の高津宮などに名が伝わります。
社名に「市」が入る社が多いのは、市場の守護という性格によります。三重県伊勢市小俣町の湯田神社は、伊勢神宮内宮の摂社です。
伏見稲荷大社(ふしみいなりたいしゃ)
二十二社
この女神が生んだウカノミタマを主祭神とする。全国の稲荷社の総本宮。
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カムオオイチヒメが現代に残した痕跡
カムオオイチヒメの名は、市と歳の語に残りました。
大歳御祖: オオトシの母という意味の神名。社ではこちらで祀られることが多い。
大市墓: 奈良県桜井市の箸墓古墳の宮内庁治定名。
市神: 市場に祀られる神。この女神を当てる社がある。
カムオオイチヒメのご利益
商売繁盛
市の守護神とされたことによる。
五穀豊穣
オオトシ・ウカノミタマの母であることによる。
カムオオイチヒメについてよくある質問
カムオオイチヒメとはどんな神様ですか。
オオヤマツミの娘で、クシナダヒメに次ぐスサノオの妻です。オオトシとウカノミタマという二柱の穀物神を生みました。
なぜ市の神とされるのですか。
名の「市」が物々交換の場を指すためです。古代の市は山の産物と里や海の産物を交換する場であり、山の神の娘であることと結びつけて説かれます。
稲荷神とはどんな関係ですか。
稲荷神とされるウカノミタマの母にあたります。ただし古事記に記されるのは系譜だけで、事績は伝わっていません。