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ギリシャ神話

プリアポスとは何の神様か|家系図・物語・祀った神殿

Πρίαπος  / プリアポス

大地 原初の神

果樹園と家畜を守る神。畑に立てられた木像がその姿。

プリアポスとは何の神様か

プリアポスはひとことで言えば畑に立つ神です。神殿ではなく、菜園と果樹園の隅に立てられました。

司るのは果樹園・菜園・葡萄畑・蜜蜂・家畜、そして多産です。ローマ名もプリアプスで、名は置き換えられていません。

信仰の中心は、ヘレスポントス海峡に面したランプサコス(今のトルコ・ラプセキ)でした。パウサニアスは、この町の人々がどの神よりもこの神を篤く敬ったと記しています。

両親はディオニュソスアフロディーテとするのが一般的です。ヘラが嫉妬して胎内の子に呪いをかけたため、異形の姿で生まれたと伝えられます。

姿は決まっています。粗く彫った木の像で、赤く塗られ、衣の裾に果物を盛り、手には剪定用の鎌を持ちます。

鳥を追い、盗人を脅し、畑の境目を示す。

農民が自分で彫り、自分で立てる神でした。 大理石の神殿を持つオリュンポスの神々とは、性格がまったく違います。

生殖を司る面が強く、ローマでは風刺詩の題材になりました。医学用語のプリアピズム(持続勃起症)はこの神の名によります。

プリアポスのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Πρίαπος。日本語では「プリアポス」で定着しています。

ローマ名はプリアプス(Priapus)で、綴りと読みが変わるだけです。ゼウスがユピテルになるような置き換えは起きませんでした。 ローマ側に対応する神がおらず、この神が小アジアから直接入ったためです。

語源ははっきりしていません。信仰の中心地ランプサコスの近くに同名の町があり、そこから来たとする説があります。ギリシャ語で意味の取れない名なので、もともとギリシャの神ではなかったと考えられています。

この神が知られるようになるのは紀元前4世紀ごろからで、ホメロスにもヘシオドスにも出てきません。後から入ってきた神です。

Πρίαπος(プリアポス)

古代ギリシャ語の表記。語源は定まっていない。信仰の中心地ランプサコス周辺の地名や、非ギリシャ語に由来するとする説がある。

Priapus(プリアプス)

ローマ名。綴りと読みが変わるだけで、別の神には置き換えられなかった。

プリアーポス(プリアーポス)

日本語での別表記。長音を入れる形。

プリアペイア(プリアペイア)

ローマ時代にまとめられた詩集の名。この神の像が一人称で語る形式で書かれている。

プリアポスの物語

  1. どこから来た神か ─ ギリシャの外から入った
  2. 呪われて生まれる ─ ヘラの嫉妬
  3. 畑に立つ木像 ─ 何をする神だったのか
  4. ロバに邪魔される話 ─ ローマでの語られ方
  5. 記録が偏っている ─ 何が伝わっていないか

どこから来た神か ─ ギリシャの外から入った

プリアポスは、ギリシャ神話の古い層にはいません。

ホメロスにもヘシオドスにも名が出てきません。文献に現れるのは紀元前4世紀ごろからで、オリュンポスの神々よりずっと後です。

出発点はランプサコスという港町でした。今のトルコ側、ヘレスポントス海峡(ダーダネルス海峡)に面した場所です。

この町の人々は、どの神よりもこの神を敬い、 ディオニュソスとアフロディーテの子と呼んでいる。

パウサニアスの記述です。つまり、町の第一の神でした。

アレクサンドロス大王の遠征以降、ギリシャ文化が東西に広がるなかで、この神も地中海全域へ運ばれます。ローマに入ると、庭と菜園の神として徹底的に普及しました。

名前がギリシャ語で意味を取れないことも、外来であることを示しています。小アジアの土着の豊穣神が、ギリシャの系譜に接ぎ木されたと考えられています。

接ぎ木の跡は、親の説がばらばらであることにも表れています。ディオニュソスとアフロディーテのほか、ヘルメスの子とも、ゼウスの子とも、アドニスの子とも伝えられます。

呪われて生まれる ─ ヘラの嫉妬

生まれの話は短く、そして苛烈です。

アフロディーテがディオニュソスの子を身ごもったとき、ヘラがその腹に触れました。

女神は嫉妬から、胎内の子に呪いをかけた。

生まれた子は異形でした。母アフロディーテはその姿を見て子を捨て、山中に置き去りにしたと伝えられます。拾って育てたのは羊飼いたちでした。

美の女神が、自分の子の見た目を理由に捨てる。 神話のなかでも後味の悪い話です。

この筋には、信仰の性格を説明する働きがあります。プリアポスは大理石の彫像で祀られる神ではなく、羊飼いと農民の神として育ちました。捨てられて田舎で育ったという話は、その位置づけをそのまま物語にしたものと読めます。

ヘラの嫉妬という説明も後付けの色が濃く、外から来た神を、既存の系譜に組み込むために作られた話と考えられています。

なお、この神が神々の宴に加わる場面はほとんどありません。オリュンポスの一員としては扱われていません。

畑に立つ木像 ─ 何をする神だったのか

この神の実際の姿は、畑に立てられた一本の木像です。

作り方まで詩に残っています。

もとは無花果の木の切れ端だった。 大工がこれを何にするか迷い、神にした。

ローマの詩人ホラティウスの一節です。材木の余りから作られる神でした。

像は粗く彫られ、赤い塗料を塗られます。衣の裾には果物が盛られ、手には剪定用の鎌を持ちます。役目は三つでした。

一つ、鳥を追い払う。かかしと同じ働き。 二つ、盗人を脅す。畑荒らしへの警告。 三つ、境界を示す。ここから先は誰の土地かを表す。

実用の道具と、神と、標識を兼ねています。

供え物も質素でした。花冠、初物の果物、乳。ロバや山羊が捧げられることもありましたが、多くの場合はその年に穫れたものを、その場に置くだけです。

ローマ時代の詩集プリアペイアは、この像が一人称で語る形式で書かれています。畑を守る立場から、通りかかる者に警告する詩が並びます。

神殿を持たない神が、これほど広く祀られた例はほかにありません。 庭のある家なら、どこにでも立っていました。

ロバに邪魔される話 ─ ローマでの語られ方

ローマの詩人オウィディウスは、この神が失敗する話を二度書いています。『祭暦』という、暦にまつわる由来を集めた作品です。

どちらも構図は同じです。夜の宴のあと、眠っている相手に近づいたところで、

ロバが大声で鳴いた。

相手は目を覚まし、居合わせた者たちがどっと笑いました。

一度目の相手は妖精ロティス、二度目は竈の女神ウェスタです。

この話には目的があります。ランプサコスでロバが捧げられる理由を説明することです。恥をかかされた仕返しとして、この神にはロバが供えられるようになった、という筋になっています。

ローマでのプリアポスは、笑われる神でした。

恐ろしい神でも、崇高な神でもありません。庭に立ち、盗人を脅し、そして自分は失敗して笑われる。親しみと軽い揶揄をあわせて向けられる立場にありました。

この扱われ方は、逆に信仰の広さを示しています。日常に近い神ほど、気軽に語られます。 ゼウスやアポロンを笑う詩は、ほとんど書かれませんでした。

記録が偏っている ─ 何が伝わっていないか

プリアポスについて残っている記録は、量は多いのに偏っています。

残っているのは主にローマの風刺詩と、庭の像です。どちらも笑いと生殖に寄った資料で、本来の農耕神としての祭がどう行われたかは、ほとんど分かっていません。

ランプサコスが信仰の中心だったことは、パウサニアスの記述で分かります。しかしそこでどんな儀式が行われたのかを伝える資料は、ほとんど残っていません。

理由は二つ考えられます。

一つは、書き残す価値がないと見なされたことです。神殿を持たず、農民が畑で祀る神の作法は、歴史書にも神話集にも記録されにくいものでした。

もう一つは、後の時代の取捨選択です。キリスト教化が進んだ地中海世界で、この神に関わるものは真っ先に壊されました。庭の像は残りにくく、伝えられた文章も限られます。

分かっていることは少ない。 ただし、その少なさ自体が、この神がどういう層に信じられていたかを示しています。文字を書く人々ではなく、畑を持つ人々の神でした。

プリアポスの家系図と家族

プリアポスの親: ディオニュソスディオニュソスとアフロディーテの子アフロディーテ

プリアポスの性格と人物像

プリアポスには、神としての威厳がありません。 そしてそれが、この神の性格そのものです。

生まれたときに姿を理由に捨てられ、育ての親は羊飼いで、住まいは畑であり、詩のなかでは笑われます。オリュンポスの宴に呼ばれる場面もほとんどありません。

にもかかわらず、地中海世界でもっとも数の多い神像の一つでした。 庭を持つ家であれば、どこにでも立っていたからです。

この神の役目を整理すると、三つに絞られます。実らせること。守ること。境目を示すこと。

果樹に実をつけさせ、家畜を増やす。 鳥と盗人を追う。 ここから先は他人の土地だと示す。

どれも具体的で、生活に直結しています。 抽象的な理念を持たない神です。

生殖を司る面が強調されがちですが、原典を読むかぎり、その力は豊かに実らせる力と同じものとして扱われています。畑が実ること、家畜が増えること、人が増えること。当時の農村では、これらは切り離せない一つのことでした。

笑われながら、いちばん近くにいた神。 その位置は最後まで変わりませんでした。

プリアポスを祀った神殿と遺跡

プリアポスの大きな神殿の遺構は、見つかっていません。 そもそも建てられなかったからです。

この神は畑と庭に立てられる木像として祀られました。木は残りません。いちばん数が多かったはずの祀り方が、いちばん残っていない ことになります。

信仰の中心地として名が確かめられるのはランプサコスです。パウサニアスがはっきり記録しています。ただし、そこでどんな儀式が行われたかを伝える資料はほとんど残っていません。

ローマの遺跡では、庭の一角にこの神の像を置いた跡が見つかっています。ポンペイなどの邸宅の庭がその例です。ただしこれらは神殿ではなく、個人の家の飾りと守りでした。

祀られ方そのものが、この神の性格を示しています。公の建物ではなく、私有地の隅にいる神でした。

ランプサコス(プリアポス信仰の中心地)(Lampsacus)

古代においてプリアポスをもっとも篤く祀った町

地図で開く

ランプサコス(プリアポス信仰の中心地)の住所: トルコ チャナッカレ県ラプセキ(ヘレスポントス)

ランプサコス(プリアポス信仰の中心地)の祀られた神: プリアポス

ランプサコス(プリアポス信仰の中心地)に残るもの: 古代都市の跡。市街地の下に埋もれている部分が多い

ヘレスポントス海峡(今のダーダネルス海峡)に面した港町です。パウサニアスは、この町の人々がどの神よりもプリアポスを敬い、ディオニュソスとアフロディーテの子と呼んでいたと記しています。

この神の信仰は、ここから地中海全域へ広がったと考えられています。

ロバが供えられたのは、この町の習わしでした。オウィディウスは、その由来を説明する話を『祭暦』に書いています。

現在はトルコのラプセキという町になっており、古代の神殿は残っていません。 出土品はチャナッカレの考古学博物館などに納められています。

所在は古代地名事典プレイアデス(Lampsacus)で確認した。

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プリアポスが現代に残した痕跡

プリアポスの名は、医学用語・園芸の意匠・詩集の名として現代に残りました。

プリアピズム(医学用語): 持続勃起症を指す病名。この神の名から作られ、現在も正式な医学用語として使われている。

庭に立てる守りの像という習慣: 菜園や庭の隅に像を立てて畑を守らせる形式。ヨーロッパの庭園装飾や、鳥を追うかかしの発想につながっている。

プリアペイア(詩集): ローマ時代にまとめられたラテン語の詩集。畑に立つ像が一人称で語る形式で、当時の口語を知る資料としても読まれている。

ポンペイの庭の像: ローマ時代の邸宅の庭に置かれた像や壁画が発掘されており、この神が日常の家庭でどう祀られたかを伝えている。

境界標という考え方: 土地の境目に像や石を立てて所有を示す習慣は、この神の役目と重なっている。ローマにはテルミヌスという境界の神も別にいた。

プリアポスが司るもの

農耕守護

果樹園・菜園・葡萄畑を守る神。畑の隅に木像を立てて祀った。

豊作

実らせる力を司る。初物の果物と花冠が供えられた。

牧畜

家畜と蜜蜂を守り、増やす神とされた。羊飼いに育てられたという生い立ちを持つ。

境界

像そのものが畑の境目を示す標識だった。ここから先は他人の土地であることを表す。

魔除け

盗人と鳥を追い払う役目を持ち、悪いものを近づけない像として庭と入口に置かれた。

子授け

多産を司る。畑が実ること、家畜が増えること、人が増えることは、当時ひとつながりの願いだった。

プリアポスが登場するゲーム・アニメ

創作でこの神が主役になることは、ほとんどありません。 姿と役割が扱いにくいためです。

取り上げられる場合も、農耕と境界の神という本来の役目より、生い立ちや逸話が中心になります。原典での比重は逆で、この神が実際にしていたのは畑を守ることでした。

一方で、庭に守りの像を立てるという発想は、名前が忘れられたまま各国の園芸文化に残っています。かかしも、庭の石像も、由来をたどるとこの神の役目に行き着きます。

プリアポスが登場するゲーム

女神転生シリーズ

豊穣を司る存在として登場します。

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アサシン クリード オデッセイ

古代ギリシャを舞台にした作品で、畑や庭に置かれた像として背景に現れます。

各種の農業・箱庭系ゲーム

畑に立てて作物を守る像という発想そのものが、この神の役目に重なります。

プリアポスが登場するアニメ・漫画・映像

古代ローマを扱う歴史ドキュメンタリー

ポンペイの庭の発掘を扱う場面で、この神の像が取り上げられます。

西洋美術の解説番組

庭園彫刻の由来を説明する文脈で紹介されます。

神話を扱う解説書

取り上げられる場合、農耕神としての役割よりも生い立ちの逸話に紙幅が割かれる傾向があります。

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プリアポスについてよくある質問

プリアポスは何の神様ですか。

果樹園・菜園・葡萄畑・家畜・蜜蜂を守る神です。あわせて多産を司ります。畑の隅に立てられた木像として祀られ、鳥と盗人を追い、土地の境目を示す役目を持ちました。

プリアポスのローマ名は何ですか。

プリアプス(Priapus)です。綴りと読みが変わるだけで、別の神には置き換えられませんでした。ローマ側に対応する神がいなかったためです。

プリアポスの親は誰ですか。

ディオニュソスとアフロディーテとするのが一般的です。ただしヘルメスの子、ゼウスの子、アドニスの子とする伝えもあり、定まっていません。親の説が分かれるのは、この神が後からギリシャの系譜に組み込まれたためと考えられています。

プリアポスはなぜ異形の姿なのですか。

ヘラが嫉妬して、アフロディーテの胎内の子に呪いをかけたためと伝えられます。生まれた子は母に捨てられ、羊飼いに育てられたとされます。

プリアポスはどこで祀られていましたか。

ヘレスポントス海峡に面したランプサコス(今のトルコ・ラプセキ)が信仰の中心でした。パウサニアスは、この町の人々がどの神よりもこの神を敬ったと記しています。

プリアポスの神殿は残っていますか。

残っていません。この神は畑や庭に立てる木像として祀られ、大きな神殿を建てられませんでした。木は残らないため、いちばん数の多かった祀り方がいちばん残っていない状態になっています。

プリアピズムという医学用語はこの神が由来ですか。

そのとおりです。持続勃起症を指す病名で、この神の名から作られました。現在も正式な医学用語として使われています。