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ギリシャ神話

プシュケとは何の神様か|家系図・物語

Ψυχή  / プシュケ

英雄

灯りをかざして夫の顔を見た人間の娘。試練を越えて神の列に加わった。

プシュケとは何の神様か

プシュケはひとことで言えば神になった人間の娘です。

名はを意味し、同じ語がそのままも指します。翅のある少女として描かれるのは、このためです。

まず、はっきりさせておくべきことがあります。この物語は、ギリシャの古い書物には出てきません。 伝えているのは、二世紀のローマで書かれたアプレイウスの小説『黄金のろば』だけです。

筋はこうです。美しすぎて誰も求婚しない娘が、神託に従って山に置き去りにされます。連れて行かれた見えない館で、闇のなかでしか会えない夫を得ました。姉たちにそそのかされ、

灯りをかざした先にいたのは、怪物ではなく愛の神エロスだった。

油の一滴で目を覚ました夫は去り、娘は四つの難題を課されます。最後は冥界へ下って箱を持ち帰りました。

人が自分の足で神になる。 ギリシャ・ローマの神話でも、ほとんど例のない筋書きです。

プシュケのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Ψυχή。日本語では「プシュケ」または「プシューケー」と書きます。

この語は、もともとを意味しました。息が抜けることを死と考えたため、そこからを指すようになります。

そして同じ語が、も意味しました。さなぎから抜け出て飛び去る姿が、体から抜ける魂と重ねられたためです。 この神が蝶の翅を持つ少女として描かれるのは、絵解きではなく、言葉そのものからきています。

この語は現代語のなかで大きく育ちました。心を扱う学問の名、心の病を治す医学の名、その分野の言葉のほとんどが、この語を頭に持っています。

神話の名前が学問の名になった例のなかでも、これほど広がったものは多くありません。

ローマ人はこの娘の名を、自分たちの言葉に訳しませんでした。物語はラテン語で書かれていますが、名前だけはギリシャ語のまま残されています。

Ψυχή(プシュケ)

古代ギリシャ語の表記。「息」「魂」を意味する普通名詞で、同じ語が蝶も指す。息が抜けることを死と考えた言い方に由来する。

プシューケー(プシューケー)

長音を残した学術的な表記。

プシケ(プシケ)

日本語での別表記。心理学に関わる語の説明では、こちらの形も使われる。

アニマ(アニマ)

ローマの物語で使われた、魂を意味するラテン語。『黄金のろば』はラテン語で書かれているが、この娘の名はギリシャ語のまま残された。

プシュケの物語

  1. ギリシャ神話ではない ─ 出典は一つだけ
  2. 灯りをかざす ─ 見てはいけないものを見る
  3. 四つの難題 ─ 最後は冥界へ

ギリシャ神話ではない ─ 出典は一つだけ

この物語について、まず知っておきたいことがあります。

ホメロスにも、ヘシオドスにも、悲劇にも、この娘は出てきません。 アポロドーロスの神話集にも名がありません。

伝えているのは、アプレイウス『黄金のろば』という一冊だけです。二世紀のローマで、ラテン語で書かれた小説です。

ろばに変えられた男が、諸国をさすらう物語。

その途中、盗賊にさらわれた娘を慰めるために、老婆が語って聞かせる作中の昔話。それが「エロスとプシュケ」です。 全体の四分の一ほどを占める、長い挿話になっています。

つまりこの話は、神話というより物語です。神託、三人姉妹、無理難題、動物の助け、禁を破る妻。世界中の昔話にある型がそろっています。

ただし、これより古い時代の美術には、蝶の翅を持つ少女とエロスを組み合わせた図が残っています。そのため、物語の一部はアプレイウスより前からあったとみる見方もあります。

書かれた形で残っているのは、この一冊だけ。 ここははっきりさせておく必要があります。

灯りをかざす ─ 見てはいけないものを見る

娘は、あまりに美しかったために不幸になります。人々が女神の代わりにこの娘を拝み始めたため、ウェヌス(アフロディテ)が怒ったのです。

神託は残酷でした。山の頂に婚礼の装いで置き去りにせよ、相手は怪物である、と。

ところが運ばれた先は、豪華な館でした。夫は夜だけ訪れ、優しく接します。ただ一つ条件がありました。

決して、私の姿を見ようとしてはいけない。

姉たちが吹き込みます。相手は蛇の怪物で、いずれ食われるのだと。娘は灯りと刃物を用意し、眠る夫の顔を照らしました。

そこにいたのは、翼を持つ愛の神だった。

見とれているうちに、灯りの油が一滴落ちます。目を覚ました夫は、

愛は、疑いのあるところには住めない。

と言い残して飛び去りました。

見てはいけないと言われたものを見る。 この型は各地の昔話に共通します。日本の「見るなの座敷」も同じ形です。

禁を破ったことが、この娘の旅の始まりになります。

四つの難題 ─ 最後は冥界へ

夫を探す娘は、ついに姑にあたるウェヌスのもとへ身を寄せます。女神は難題を出しました。

第一に、混ぜ合わされた穀物を種類ごとに選り分けること。蟻の群れが手伝います。

第二に、人を襲う羊から金色の毛を取ること。川のが、羊が眠る午後に木の枝から取れと教えます。

第三に、切り立った崖を流れるステュクスの水を汲むこと。が器を運びました。

第四が最も重い課題です。

冥界へ下り、王妃から美しさを分けてもらって、この箱に入れて持ち帰れ。

塔が道順と作法を教えます。渡し賃の銅貨、番犬に投げる菓子、途中で助けを求める者に応じてはならないこと。娘はすべてやり遂げ、箱を持って地上へ戻りました。

そして最後に、もう一度禁を破ります。 箱を開けたのです。中身は美しさではなく死の眠りでした。

倒れた娘を、傷の癒えたエロスが助け起こします。ゼウス(ユピテル)は神々を集め、

この娘に不死の杯を与えよ。

と定めました。二人のあいだに生まれた娘の名は「喜び」です。試練を越えて、人間が神になりました。

プシュケの家系図と家族

プシュケの妻・夫: エロス闇のなかで結ばれ、試練ののち神の列に加わった

プシュケの性格と人物像

プシュケは、ギリシャ・ローマの物語のなかでも珍しい主人公です。

第一に、人間です。 神の子でも、半神でもありません。第二に、女性です。 難題を課され、旅をし、冥界へ下る役は、たいてい男の英雄のものでした。

性格としてまず挙がるのは、好奇心でしょう。見るなと言われた夫の顔を見て、開けるなと言われた箱を開けます。二度、同じ失敗をしています。

これを愚かさと読むこともできます。しかし物語は、そう扱っていません。見たからこそ、この娘は夫を探す旅に出ました。 見なければ、闇のなかで何も知らないまま暮らし続けたはずです。

第二の性格は、やり遂げることです。四つの難題のうち三つは助けを借りますが、冥界への道だけは、教えられた作法を自分で守り抜いています。途中で助けを求める声に応じてはならない、という難しい掟も破りませんでした。

名が「魂」であるだけに、この物語は古くから寓意として読まれてきました。魂が、試練を経て神のもとへ帰る話です。

読み方は分かれますが、失敗した人間が最後に報われるという筋は、この物語の魅力そのものです。

プシュケゆかりの地と遺跡

プシュケを祀った神殿はありません。

理由ははっきりしています。この娘は信仰の対象として生まれたのではなく、二世紀の小説のなかの登場人物として生まれたからです。ギリシャの都市が祀った記録も、犠牲を捧げた記録もありません。

そのかわり、姿を残した遺物は数多くあります。 蝶の翅を持つ少女とエロスを組み合わせた像や浮き彫りは、アプレイウスより前の時代のものも見つかっています。物語のすべてではないにせよ、この組み合わせ自体は古くからあったことになります。

近代以降は、彫刻と絵画の主題として広く作られました。眠る娘に口づけをする場面の像は、とくによく知られています。

祀られなかったかわりに、作品として残り続けた存在です。

プシュケが現代に残した痕跡

プシュケの名は、心を扱う学問の名として現代に残りました。

心理学という学問の名: 心を扱う学問、心の病を治す医学、それに関わる語のほとんどが、この語を頭に持つ。神話の名前が学問の名になった代表例。

蝶を意味する語: ギリシャ語では同じ語が魂と蝶の両方を指した。さなぎから抜け出て飛ぶ姿を、体から抜ける魂と重ねたためである。

「エロスの接吻で蘇るプシュケ」: 倒れた娘を抱き起こす場面を彫った大理石像。十八世紀末の作で、この物語をもっともよく知られたものにした。

蝶の翅を持つ少女の図像: アプレイウスより古い時代の美術にも、エロスと組み合わされた姿が残る。物語の一部が先にあったとみる根拠になっている。

プシュケが司るもの

エロスと結ばれるまでの試練の物語として語られる。愛の神が愛する側になった唯一の話でもある。

恋愛成就

一度は失った相手を、自分の足で取り戻した娘として伝えられる。

忍耐

四つの難題を課され、最後は冥界まで下って果たした。

魂の導き

名がそのまま「魂」を意味し、魂が試練を経て神のもとへ帰る寓話として読まれてきた。

プシュケについてよくある質問

プシュケはギリシャ神話の神ですか。

ギリシャの古い書物には出てきません。この物語を伝えているのは、二世紀のローマでアプレイウスがラテン語で書いた小説『黄金のろば』だけです。作中で老婆が語る昔話として置かれています。

名前の意味は何ですか。

「息」から転じて「魂」を意味する語です。同じ語が蝶も指します。さなぎから抜け出て飛ぶ姿を、体から抜ける魂と重ねたためで、この神が蝶の翅を持つのはそこからきています。

なぜ夫の顔を見てはいけなかったのですか。

原典は理由をはっきり書きません。エロスは去るとき「愛は疑いのあるところには住めない」と言い残します。見るなと言われたものを見るという型は、世界各地の昔話に共通するものです。

四つの難題とは何ですか。

穀物の選り分け、人を襲う羊の金の毛、崖を流れるステュクスの水汲み、そして冥界から美しさの箱を持ち帰ることです。蟻・葦・鷲・塔がそれぞれ助けを出し、最後の課題は自分で作法を守り抜きました。

心理学と関係がありますか。

あります。心を扱う学問や、心の病を治す医学の名は、この語を頭に持っています。もとは息と魂を意味する普通名詞で、そこから広がりました。