祓戸四神の最後。根の国で罪穢をさすらわせ、消し去る。
ハヤサスラヒメとは何の神様か
ハヤサスラヒメはひとことで言えば穢れを消す最後の神です。大祓詞に記される祓戸四神のうち、最後に登場します。
イブキドヌシが息吹を放って根の国?・底の国へ持ち込んだ罪穢を、この女神がさすらって失わせます。
その結果、今日より始めて罪という罪はなくなる、と大祓詞は結びます。
ハヤサスラヒメの漢字表記と読み方
読みは「はやさすらひめ」です。「ハヤ」は速い、「サスラ」はさすらう、「ヒメ」は女神を指します。
「さすらう」は、いまもあてもなくさまようという意味で使われます。
古語では、流離とも書きました。故郷を離れて漂うことです。
罪穢をさすらわせて失わせる。行き先を定めず、消えるまで漂わせるという働きです。
速佐須良比売神(はやさすらひめのかみ)
大祓詞での表記。
速佐須良比咩神(はやさすらひめのかみ)
「売」を「咩」と書く例。
速佐須良姫命(はやさすらひめのみこと)
社での表記。
ハヤサスラヒメの物語
四段の最後
大祓詞は、罪穢が消えるまでを四段に分けます。
一 瀬織津比売 ─ 川から海へ流す。
二 速開都比売 ─ 海の底で呑み込む。
三 気吹戸主 ─ 根の国へ息を吹き送る。
四 速佐須良比売 ─ 根の国でさすらわせ、失わせる。
この女神で、すべてが終わります。
大祓詞は、こう結びます。今日より始めて、罪という罪はあらじ、と。
あらじは、無いという意味です。四柱の働きが順に果たされて、はじめて罪が消えます。
消えるまで漂わせる
この女神の働きは、他の三柱と少し違います。
流す、呑む、吹く ─ いずれも移す動作。
さすらわせる ─ 移さずに、消えるまで漂わせる。
行き先がありません。根の国が終着点だからです。
穢れは、これ以上どこへも運べません。そこで、あてもなく漂わせて消滅を待ちます。
捨てるのではなく、失わせる。日本の祓の考え方の到達点が、この一柱に込められています。
スセリビメと同じか
なぜ記録が少ないのか
この女神は、古事記・日本書紀・出雲国風土記のいずれにも記されていません。
父はイザナギとされるが、記紀に根拠はない。
各地の社や伝承にも情報が少ない。
謎の神と呼ばれることがあります。
祝詞研究の青木紀元は、祓戸四神のうち記紀に対応が見えるのは速開都比売だけだと指摘し、他は大祓詞の文章のなかで生まれた観念的な神々だと述べています。
文章の綾とともに生まれた、宗教的というより文芸的な性格の強い神。それがこの女神です。
ハヤサスラヒメの家系図と家族
ハヤサスラヒメの性格と人物像
ハヤサスラヒメは、終わらせる女神です。
姿がありません。系譜も、記紀の裏づけもありません。それでも、罪が消える最後の瞬間を担っています。
流され、呑まれ、吹き送られた穢れが、この女神のもとで失われます。
六月と十二月の大祓で、日本中の神社がこの名を唱えます。物語を持たないまま、千年以上、毎年二度呼ばれ続けた神です。
ハヤサスラヒメを祀る神社
この女神を祀る社としては、滋賀県大津市の佐久奈度神社が代表です。祓戸四神をそろえて祀ります。
三重県亀山市の片山神社、松阪市の二十五柱神社、滋賀県高島市の川裾宮唐崎神社などにも祀られます。
宮崎県西都市の速川神社、鳥取市の利川神社は、名の「ハヤ」を社名に負います。多くの神社では、境内の祓戸社に四柱まとめて祀られます。
ハヤサスラヒメが現代に残した痕跡
ハヤサスラヒメの名は、大祓詞の結びに残りました。
大祓詞: 六月と十二月の晦日に唱えられる祝詞。この女神で罪が消える。
さすらう: あてもなくさまようこと。この女神の名の由来で、いまも日常語として使われる。
根の国: 地の底にあるとされる世界。穢れの終着点。
ハヤサスラヒメのご利益
厄除け
罪穢を最終的に失わせる働きによる。
心身清浄
大祓の締めくくりを担うことによる。
ハヤサスラヒメについてよくある質問
ハヤサスラヒメとはどんな神様ですか。
大祓詞に記される祓戸四神の最後の一柱です。根の国に持ち込まれた罪穢を、さすらわせて失わせます。
記紀に出てきますか。
古事記・日本書紀・出雲国風土記のいずれにも記されていません。大祓詞と、その注釈に現れる神です。
スセリビメと同じですか。
本居宣長が、神名の類似と根の国にいることから同一視しました。ただし当てはめであり、同じ神と決まったわけではありません。
ハヤサスラヒメと併せて覚えたい言葉・用語
根の国(ねのくに)
地の底にあるとされる国。スサノオが最終的に治める。黄泉の国と同一視されることもある。