スサノオの乱暴で命を落とした機織の女神。
ワカヒルメとは何の神様か
ワカヒルメの漢字表記と読み方
読みは「わかひるめ」です。「ワカ」は若い、「ヒル」は日、「メ」は女を指します。つまり若い日の女神です。
アマテラスの別名は大日孁貴(おおひるめのむち)で、「オオヒルメ」です。
オオヒルメ(大いなる日の女) ─ アマテラス
ワカヒルメ(若い日の女) ─ この神
名が対になっています。そのため、アマテラスの妹とも、若い頃の姿ともされます。同一神とする説もあります。
稚日女尊(わかひるめのみこと)
日本書紀での表記。
稚日女命(わかひるめのみこと)
生田神社での表記。
ワカヒルメの物語
機織り小屋の事件
スサノオは高天原で、次々と乱暴を働きました。
田の畦を壊す。溝を埋める。神殿に糞をする。
アマテラスはかばい続けましたが、最後の行いが決定的になります。
斎服殿(いみはたどの)、神に捧げる衣を織る建物の屋根に穴を開け、皮を逆さに剥いだ馬を投げ込みました。
驚いた機織りの女神は、梭(ひ/横糸を通す道具)で陰部を突いて亡くなりました。
日本書紀の一書?は、この女神を稚日女尊と記します。
なぜ馬の皮なのか
皮を逆さに剥ぐという行為には、意味があります。
古代において、馬の皮を逆剥ぎにするのは重大な罪とされました。天つ罪のひとつに数えられます。
畦放ち・溝埋み・樋放ち・頻蒔き・串刺し・生剥ぎ・逆剥ぎ・屎戸
大祓の祝詞に列挙される罪の一覧です。スサノオの行いは、この罪のほとんどを網羅しています。
つまり罪の見本として描かれています。単なる乱暴ではなく、当時の社会が定めた禁忌の一覧なのです。
天岩戸へつながる
この事件のあと、アマテラスは天岩戸に隠れました。
世界が闇に包まれる。
つまりワカヒルメの死が、日本神話最大の危機の引き金です。
それでいて、この女神についての記述はここだけです。古事記は名前すら記しません。「天の服織女(はたおりめ)」とあるだけです。
日本書紀の一書がはじめて稚日女尊の名を記します。
名を持たない死が、世界を止めたという構図になっています。
生田神社の由来
神功皇后が朝鮮から帰る途中、船が進まなくなりました。占うと、稚日女尊が現れて告げます。
吾は活田長峡国に居らむと欲ふ。
活田(いくた)の地に居たいという神託です。そこで社が建てられました。生田神社の始まりです。
神戸という地名も、この社に由来します。社に仕える民を神戸(かんべ)と呼び、それが地名になりました。
阪神淡路大震災で社殿が全壊しましたが、1996年に再建されています。
ワカヒルメの家系図と家族
ワカヒルメの性格と人物像
ワカヒルメは、記録の少なさと影響の大きさが極端に食い違う神です。
登場するのは一場面だけ。台詞もありません。それでいて、この神の死がアマテラスを岩戸に隠れさせました。
世界が闇に包まれた原因が、名前もはっきりしない一柱の死である。
古事記は名を記さず、日本書紀の一書だけが稚日女尊と伝えます。
神戸という都市の名の由来にまでつながっている点を考えると、記述の量と実際の影響は別であることがよく分かります。
ワカヒルメを祀る神社
ワカヒルメを祀るのは、神戸の生田神社が代表です。
神戸という地名は、この社に由来します。社に仕える民を神戸(かんべ)と呼び、それが土地の名になりました。
和歌山の玉津島神社など、この神を祀る社が各地にあります。糸を織ることと縁を結ぶことを重ねて、縁結びの信仰を集めてきました。
生田神社(いくたじんじゃ)
別表神社
神功皇后の神託により創建と伝える。「神戸」の地名の由来。
阪神淡路大震災で全壊し、1996年に再建された。
ワカヒルメが現代に残した痕跡
ワカヒルメの名は、神戸という地名に残りました。
神戸(こうべ): 生田神社に仕える民「神戸(かんべ)」が地名になった。
天つ罪: スサノオの行いが列挙された罪の一覧。大祓の祝詞に残る。
梭(ひ): 機織りで横糸を通す道具。この神が命を落とした原因。
ワカヒルメのご利益
縁結び
生田神社の信仰の中心。糸を織ることと縁を結ぶことを重ねる。
安産
生田神社での信仰による。
織物守護
機織りの女神であることによる。
ワカヒルメについてよくある質問
ワカヒルメとはどんな神様ですか。
アマテラスの妹、あるいは若い頃の姿とされる女神です。スサノオが機織り小屋に馬を投げ込んだとき、驚いて梭で身を傷つけ亡くなりました。
アマテラスと同じ神ですか。
説が分かれます。アマテラスの別名「オオヒルメ」と名が対になっており、妹とも若い頃の姿とも、同一神ともされます。
神戸という地名と関係がありますか。
この神を祀る生田神社に仕える民を「神戸(かんべ)」と呼び、それが地名になりました。
ワカヒルメと併せて覚えたい言葉・用語
高天原(たかまがはら)
天上にある神々の国。アマテラスが治める。
一書(あるふみ)
日本書紀が本文とは別に併記する異伝。「一書に曰く」の形で複数載る。